第79話の2『派手な忍者』
「にしてもよぉ。俺が金色になるとは夢にも思わなかったぜ」
「金色の鳥って、実際にいるのかな?」
「いるぜ。あれは結構、美味い」
俺としては日本にある金色のお寺の上に乗ってるオブジェくらいしか思いつかなかったが、この世界には本当に金色に輝いている鳥がいるらしい。きっと美しいだろうし、なんなら美味しいらしいから会えたら一石二鳥である。そんな雑談をしていると、グロウが何かに気づいた様子で立ち止まり、ごそごそと懐を探り始めた。
「お……」
「……どうした?」
「ヤバいぜ。忘れ物だ!泉まで取りに戻る」
「それは大変だ。ルルル、ちょっと戻るぞ。ジャジャーンさん、待っててもらっていいですか?」
「うむ。よろしい」
俺とルルルだけでは敵が出てきた時に対応できない為、心配する素振りを見せつつも俺たちはグロウのあとをついて泉まで戻り始めた。どうやら水を飲む時に下へ置いた剣の一本をグロウは忘れたようで、それを取りに向かうべく俺たちは体からキラキラを振りまきながらも来た道を逆走する。
「たく。自分が金色になったせいで、大切な金剛袖手を置き忘れるたぁな」
「あの派手に光ってる刀か……今なら一番、似合うだろうなぁ」
ひしめく森の木々を抜けると、徐々に泉の水の輝きが見えてくる。グロウの刀は聖剣さながらの輝きで泉の近くに置いてある。そこで、ふと俺たちは水を飲んでいる謎の人物と遭遇した。
「……?」
「……ジュルルル……ジュルルル……おっ?」
水を飲んで体を金ぴかにしている忍者姿の人と、同じく金ぴかまみれな俺たちの視線がピタッとあう。やや長めの沈黙をはさんだ後、忍者はバッと立ち上がって俺達へ威嚇の動作をとった。
「見られてしまうとは情けない!死んでもらう!」
「あ、敵だ!ルルル、下がってなさい!」
過激なセリフから相手が敵っぽいことを感じ取り、俺はルルルをかばいつつ自分もグロウの後ろへと逃げ込んだ。忍者はパッパッパと素早い手の動きで次々とポーズを取り、目にもとまらぬ速さで5人に分身する。そして、小さい刀を持って同じ姿勢を作り、俺たちの前にズラリと並んだ。
「影分身だ!ひゃははは!どれが本物か見分けがつくまい!情けない!」
「……」
5人に増えた忍者なのだが……その内の1人だけがキラキラと黄金に輝いており、俺たちは影分身の術を見た以上に惑わせられた。いや、逆に罠の可能性もありうる。そうして相手の動きを見定めていると、続けて忍者はヒントを出してくる。
「驚き桃の木!言葉も出まい!この中で本物は1人だけ!貴様らには見破れやしない!」
「勇者……あれ、斬りに行っていいと思うか?」
「うん……すごく、いいと思う」
「死ね」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁ!」
念には念をいれてか、グロウは5本の刀で一気に全員を斬り捨てた。案の定、金色に光っている忍者が本物であり、斬られた忍者は悲痛な叫び声をあげながら吹き飛ぶ。ドサリと忍者が地面に落ちると、他の分身たちも風に吹かれるようにして消えてしまう。息を残している忍者の首元へ、グロウが刀を突きつける。
「相手と状況が悪かったな。オメェ、つくづく運がねぇよ」
「くっ……情けない!だが、このカリス!四天王の1人であるクロル様の忠実なる下部!死は恐れぬ!」
「四天王だって?」
(緊急連絡!こちらカリス、精霊の残りを発見!)
(待たれよ!救助する!)
忍者の口から発せられた四天王という単語に俺が反応した矢先、カリスと名乗った忍者の声がテレパシーで頭の中に響いた。急に強い風が吹き荒れ、俺は顔を腕で覆って目を閉じる。次に目を開いた時には、もう金ぴかの忍者は俺たちの前から姿を消していた。
「どうしたの!?勇者諸君!」
俺たちのことが心配になったのか、ジャジャーンさんが泉まで戻ってきてくれた。しかし、敵の間抜けさから一転して、『精霊の残り』や『四天王』と言った不穏な言葉がなだれ込み、ルルルは不安を隠せずに俺を見つめている。これは……神殿へ急いだほうがいいかもしれない。
第79話の3へ続く






