第78話の5『転落』
ボンと魔導力車の大きな車体が押し飛ばされ、その先の川では恐竜のような大きな魚が口を開けて待っている。陸地側の巨大なヘビがいる方では銃声が鳴り、すぐにバンさんが応戦したと考えられる。こちらもカリーナさんが窓を開いているが、間に合うかどうかは解らない。そこで、バリアを張るスイッチの近くにカルマさんがいるのを知り、俺は咄嗟にバリアの作動を求めて呼びかけた。
「カルマさん!バリア、お願いします!」
「えっ!」
「カルマさん!お願いします!」
「は……はいいいいいいぃぃぃぃぃ!」
カルマさんが壁についているスイッチを動かす。ガクンと音がして、車が大きく揺れた。そして、車の屋根が開きだした……。
「……カルマさん!?」
「しまった!罠か!」
罠じゃなくて、あなたのミスなんだよなぁ……などと思っていたところ、屋根が虫の羽のように広がったせいで車の幅が広がり、車は魚の口に入らず川へと転落した。その際の衝撃で、俺は開いた屋根から放り出されてしまった。
「わ……うわああああぁぁぁぁ!」
「お……お兄ちゃん!」
一緒に飛び出したルルルが川へ落ちそうになった俺の襟をつかみ、落ちないように持ち上げながら飛行を開始してくれる。ただ、車は開いた屋根の方を上にして浮かんだまま、白い波をたてている川の水に押し流されていく。ひとまず、俺とルルルは橋の壊れていない場所へ避難し、口を痛そうにしている魚と、目から血を出しているヘビにはさまれる形で体勢を立て直した。
「とにかく、逃げるぞ!」
「う……うん」
そう言ってルルルを連れて逃げようとするのだが、俺たちのいる場所の近くにカルマさんも投げ出されている事実を知り、そちらも回収せねばならず逃げるのが遅れてしまった……。
「カルマさん!」
「……さ……最悪の事態は免れたか」
「起きてください……今が一番、最悪です」
寝ぼけているカルマさんを助け起こすと、俺は肩を貸して歩き出した。しかし、その間にもヘビの方は目に溜まった血を振り払って正気を取り戻し、橋の上にいる俺達へとにじりよってきた。橋は途中で壊れていて向こう岸へは渡れず、横に広くもないのでヘビに追い詰められ逃げ場のない状態となった。
「仕方ない。川に飛び込むか……」
「魚に食われるのが関の山なんよ……」
「いいんですか?僕は泳げませんよ?」
こんな大木みたいなヘビとやりあっても、俺達では勝ち目がない。苦肉の策をねってみても、あれこれ不都合があって上手く行かない……ここはルルルだけでも飛んで逃げてもらうか。俺が考えを巡らせていると、ヘビはにらみつけるようにして俺たちの前へと頭を動かした。
「……」
「……」
「……あら?精霊様じゃあありませんか?」
「……?」
睨みつけていた目つきをゆるめ、ヘビは地響きが起きそうな低い声でひょうきんに喋り出した。それを受けて、魚の方も嬉しそうに声を発する。
「精霊様……戻ってきた。戻ってきた」
「……ルルル。知り合いか?」
「知らない……」
話を聞く限り、ヘビと魚はルルルを知っているようなのだが、当のルルルは相手が誰なのか知らないらしい。しかし、相手の敵対心は薄れている。これはチャンスだ。俺は小声でルルルに伝える。
「知り合いって言いなよ」
「でも、知らないし……」
「いいからいいから」
「えー……」
「で……では、僕が言います!」
「それはいいです……やめてください」
第78話の6へ続く






