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第78話の1『かわいい天国』

 {前回までのあらすじ}

 俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。セントリアルを中心に魔力による病が広がっていると見て、その原因を探る作戦に参加させてもらえるようお願いした。出発直後に魔王軍の襲撃を受け、今は雨空の下で休憩中である。


                    ***


 「この中の誰よりも、俺は頼りないよ」

 「勇者さん……僕を忘れてはいないですか?」

 「はりあわないでくささい……」


 カルマさんを含めて、お兄ちゃんを名乗る人たちの足手まとい感はぬぐいきれない。にしても、ルルルは何が不安で俺をののしっているのであろうか。拭き終わったキメラのツーさんを嫌がるルルルの腕に戻していると、ふと仙人が思い出したようにテレパシーを送った。


 (精霊よ。このへん、精霊神殿なんじゃん?)

 「え?精霊神殿?」

 「じじい!いらないこと言わなくていいんよ!」

 『ほお、精霊神殿!行くのかね!?君たち!』


 動いていない仙人の口をルルルがふさいでいると、今度はゼロさんの手元から別のダンディな声が聞こえてくる。この声は……レジスタの博士だ。みんなの視線が向いたのを知り、ゼロさんは手に持っているガラス玉のようなものについて説明しつつ、それを持ちあげて俺たちに見せた。


 「これを博士から預かってきた。設定に時間がかかってしまった」

 『やあ、皆さん。私も調査の情報が随時、欲しいと思ってね。ゼロに通信装置を託したのだ。やっと繋がったよ』

 「そうなんですか。それで博士、精霊神殿ってなんですか?」

 『誰だね。君は』

 「俺、テルヤです……見えますか?」

 『見えたぞ!まるっとね!』

 

 こちらからは博士の顔が見えないが、あちらは俺たちの様子が見えるらしい。あと、やや音声通信に障害があるのか、博士の声も通常より1オクターブくらい高い。逆もしかりなのかと思い、俺も1オクターブ低くして喋ってみる。


 「ううん……精霊神殿ってなんですか?」

 『あれだよ。魔法の原動力たる自然の力、それを司る精霊たち、霊界神が暮らしているとされる場所と聞く。邪な人間には近づくことも叶わないという。ところでテルヤ君、声が変だな』


 あちらには普通に聞こえてるのか。なんか、わざと低い声で喋っちゃって恥ずかしいな……。

 

 (わしも実際には行った事がない……ふぅ)

 「へぇ……じゃあ、ルルルの故郷じゃん。寄ってく?」

 「やめてほしい……」

 

 仙人も行った事がないとのことなので、顔見せがてら寄ってみたくは思ったが、地元民であるルルルは行きたくない様子だ。まあ、今回は精霊山・ソルという場所の調査が目的であり、娘さんの実家を見るのは任務外行動である。余裕があれば帰りに寄るのもいいかもしれないが、まずは精霊山に何があるのか考えるだけで不安で不安で仕方がないので、そのあとのことまでは俺は考えたくはない。


 「待ってほしいっす。博士、精霊たちって言ったっすか?」

 『誰だね。君は』

 「レジスタ防衛隊員のミオっす」


 俺たちの会話を横で聞いていたミオさんが、目を輝かせながら急に立ち上がった。作戦に関係して、そちらも気づいたことがあるのか。まじめな顔をしているミオさんの方へ、次の言葉を待つようにして俺たちは興味を向けている。


 「つまり……ルルちゃんみたいな子が、いっぱいいるってことっすよね?」

 『なんじゃない?』

 「……それ、かわいい天国じゃないっすか?」


 そこは盲点だったな……やっぱり俺、小さい女の子には興味がないらしい。そして、かわいい天国を想像している様子のミオさんとカリーナさんはメチャメチャいい笑顔である。それを聞いたルルルが、目を泳がせながらふてている。


 「ミオちゃん……小さい子なら誰でもいいんだ」

 「そんなことないっす!ルルちゃん、こっちにおいで!」

 「ミオちゃん~……ぎゅっ」

 「ぎゅ~っ」


 抱きしめ合っているミオさんとルルル。それと、それに少し交じりたそうなゼロさん……。


 

                                  第78話の2へ続く

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