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第77話の7『黒い雨』

 「私の、実に個人的な不手際のせいなのだが、少々の休憩をいただきたい」

 「いえ、俺もアマラさんには休んでいただきたいです……バンさん。いいですよね?」

 「あ、どうぞどうぞ」


 俺たちのいた後方座席は全くもって無事なのだが、アマラさんのいた運転席だけは風が吹き込むほどにガラスが割れており、それに加えて雨まで降ってきたものだから少し休憩する次第となった。魔導力車のスピードを緩めつつ、森の境目にある大きな樹の下へ駐車する。


 まだセントリアルを出発して間もないので、そこまで俺も体に疲れはない。でも、アマラさんが窓ガラスの大きな破片をパズルのように繋げて修復しているので、それなりに出発まで時間は空きそうである。幸いにも大樹の枝葉が雨をシャットアウトしてくれているので、ちょっと外の空気を吸いに出られそうだ。


 「……バンさん。何をしているんですか?」

 「ん?ああ、弁当箱を土に埋めてるんだ」

 

 雨で湿った空気の中で深呼吸をしていたところ、バンさんが木の下で何かしているのに気づいた。ほんの興味本位で尋ねてみたのだが、思った以上に不思議な返答をくれた。なんでですか……。


 「そういった風習か、民族的な作法なんですか?」

 「箱を持って歩くと荷物になるだろ?だから、土に還る素材でできているんだ」

 「あ……そうなんですか」


 訳を聞いてみたところ、それなりに合理的な回答をバンさんからいただいた。納得した拍子に俺が顔を上げた瞬間、小さな水滴が頬に当たった。雨が木の隙間から流れ落ちてきたのだろうか。手で拭ってみる。その水滴は少しばかり黒かった。


 「……?」


 木の葉や幹には黒ずんでいる様子がない。だとすると、降り注いでいる雨が黒いのだろう。大樹の枝がのびている範囲外にできた水たまりを見てみても、やはり微妙に黒っぽく濁っている。そんな怪しい雨の中へ、キメラのツーさんが飛び出していく。


 『マガマガマガシイ!アメ!ザーザー!』

 「ツーさん……風邪ひきますよ」

 『……?カゼ?カゼ、ふいてないない!なんなんですか?』

 「まあ……体を冷やすと、体調が悪くなりますよって話ですね。ルルルも、ちゃんとツーさんを止めてね」


 魔導力車の出入り口付近にいたルルルへ声をかけてみるが、ルルルは灰色の空と濁った雨を見つめたまま、ぼーっと何か考えている様子であった。ここのところ数日、明らかに様子がおかしい。やはり、事情を聴いてみた方がいいかもしれない。


 「ルルル。やっぱり、これから行く調査地点に、何か嫌な記憶でもあるのか?」

 「え……あ……別に」

 「そうか。俺は、ルルルが元気じゃないとイヤだからな。あと、ツーさんも」


 口を空へと開けて雨を飲んでいるツーさんを回収しつつ、俺はルルルの頭をなでてから魔導力車へと入る。キメラのツーさんは抵抗するでもなく俺の袖に拭かれているのだが、その視線は依然として黒い雨へと向いている。


 『もっともっと飲んだら、勇者!コロセル気がしたののの!』

 「ひいぃ!殺すとか言ってる!」


 キメラのツーさんの発言を受けて、俺の代わりにカルマさんが恐れおののいている。でも、そんなセリフを吐き出しつつも、ツーさんが俺に襲いかかってくる気配は微塵もなく、旅を続けるにつれて多少は仲良くなったような実感すらある。そうしてツーさんと戯れている俺の前へ、ルルルがパタパタと走ってきた。そのままムッとした表情で、ルルルは俺の顔を見つめている。


 「ど……どうした?」

 「……お兄ちゃんって」

 「……?」

 「……改めて見ても、やっぱり頼りないんな」

 「……まあね」


 むしろ、やっと気づいてくれた感じすらある……が、なぜ急に。


                                 第78話へ続く


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