第77話の6『銃弾』
「バンさんのお弁当、色々と入っててキレイですねぇ」
「ん?うちの嫁さんが作ったんだ。久々だから意気込んで作ったのかもなぁ」
カルマさんと話していても都合の悪い情報しか出てこなそうなので、ちょっと席を出張してバンさんたちの方へと来てみた。バンさんの弁当箱は素朴な色合いのものなのだが、中身は食材に彩りがあって美味しそうである。そうか。奥さんが作ってくれたものなんだな。
「嫁さんな。あんまし家に帰らないから、たまに帰ると喜ばれる……が、心配をかけて申し訳ない気持ちはある」
「あら。旦那様がバン隊長なのですから、心配のし甲斐もないでしょう?」
「カリーナさん……よしてくれよ。俺だって無謀な真似をすれば死ぬ」
カリーナさんとバンさんのやりとりを聞く限り、バンさんは危険な場所へ踏み込むに見合った実力の人なのだと思われる。俺の仲間内でも仙人は魔法が使えなくとも超人的だし、この世界では『魔法使いじゃない』=『日本でいう一般的な人』という認識ではないのだと理解した。
『……マモノだ!アヤシイ!』
「……?」
キメラのツーさんがルルルの腕の上で大声を上げ、俺たちは一斉に別々の方向にある窓から外を見つめる。進行方向の右側より引き車が幅寄せしてきており、その引き車を引いているのは真っ黒な馬のような生き物であった。
『そこの車、とまれ!さもなくば、力づくで止めるまでぇ!』
「……ひょ?」
近づいてくる引き車から聞こえてきた声を受け、仙人が何か気づいたように引き車がある方へ目を向けた。この声は……何度も聞いた記憶がある。仙人の昔馴染みで、魔王軍へと寝返ったブシャマシャさんという人だ。姫様に撃ち落された記憶も新しいが、ちゃんと生きていた辺りタフネスの高さが伺える。
『止まれと言ったぞ!何か言え!』
こちらを急かすようにして、ブシャマシャさんの声が届く。魔導力車の運転席がある部屋から、アマラさんがバンさんに呼び掛けてくる。
「大佐。止めた方がいいかな?」
「……勇者さん。あれ、あんたの友達か?」
「友達じゃなくて、しいていえば敵です……おわわ!」
窓ガラスに無数の炎のようなものが叩きつけられた。窓ガラスは割れこそしなかったが、白く曇って外が全く見えない。ガラスが飛散しない内に、俺たちは離れて座席の後ろへ避難した。その攻撃に続けて、ブシャマシャさんの目的が告げられる。
『お前らを人質にして、あの街に囚われた仲間の解放を要求するのだ!大人しく従えばケガは少なくて済む!』
「もういやだあぁ!僕が何をしたというんだぁ!何かしてたら、ごめんなさぁい!」
本当に何もしていないカルマさんが、勝手に自分の行いに謝罪している。それはともかく、アマラさんが引き車ジャック事件を解決した時や、姫様が魔王軍を一蹴した際、魔王軍の魔物を捕獲していたのだろうと俺は考えた。泣き叫ぶカルマさんの声に負けないよう、バンさんはアマラさんへと答えを返した。
「アマラさん。あれ、追い越せますか?」
「了解」
スピードを上げた魔導力車の外装へ、魔法と思われる火球がガンガンとぶつかってくる。窓や車体には魔法と思われるバリアが張られていてダメージは少なそうだが、側面の窓ガラスを開いて反撃するのは困難と思われる。そんな中、バンさんは攻撃の当たっていない魔導力車の後方にある窓ガラスを開き、単独で外へと飛び出していく。
「ちょ……バンさん?」
車の後方へと飛び降りたかと思いきや、バンさんは窓枠に片手で掴まったまま、もう片方の腕で銃を構えていた。
「悪いけど勇者さん、頭は引っ込めておいてくれ」
「わ……解りました」
一気に魔導力車のスピードが上がる。バンさんがいる窓の下では連続した銃声が鳴った。それにともなって敵の攻撃は徐々に減退していき、魔王軍の引き車の影が完全に横を通り過ぎる頃には、もう窓に叩きつけられていた魔法の一切が途絶えていた。敵を完全に無力化したバンさんが、窓枠に足をかけて戻ってくる。
『な……なにごと!なああああぁぁぁ!』
「じゃあな」
そう言いつつ、バンさんは後方で煙を上げている引き車へ銃口を向け、そちらを見ずに最後の一撃を放った。着弾の末、引き車は大爆発を起こし、乗組員たちも外へと放り出されていた。
「手間取ってすまない。勇者さん。みんな。ケガは?」
「俺たちは平気ですけど……バンさんは?」
「なんてことはないさ。アマラさん、敵は追い払いました。安心して進めてください」
バンさんが運転席へ続くドアを開く。すると、ほとんど割れているフロントガラスを前に、剣を持ったまま足先でハンドルを回しているアマラさんがいた……。
「いやね。後ろに魔法でバリアはってたら、前の防御を忘れてしまったんだ」
バンさんもだが、こちらはこちらで、よく生きてたなぁ……。
第77話の7へ続く






