第77話の4『発進』
「姉さん。お気をつけて」
「あら。うふふ」
魔道力車の窓から下を見ると、カリーナさんと弟のカラードさんが別れの挨拶をしていた。カラードさんは普段着らしいシャツと皮ズボン姿なのだが、あちらこちらに包帯やガーゼを巻いていてケガの痕跡が見え隠れしている。そして、彼の後ろにはカラードさん見たさのヤジウマの方々が凄い。
「お姉ちゃんが、カラード君の分まで頑張るからね。いい子で寝てるのよ」
「やめてください……はずかしい」
カリーナさんに頭をなでられて、カラードさんが恥ずかしそうに照れている。やっぱり姉弟で話してると雰囲気が違うな……と眺めていたら、その横で荷物整理をしているグロウとカラードさんの目があったようで、しばしの沈黙の末にカラードさんが対応を始める。
「先日は、失礼いたしました」
「……?」
「シオンです」
「……ああ。おめぇか。気にすんな。俺が強すぎただけだぜ」
「……ですか」
微妙に噛み合ってるのか解らない会話ながら、自覚の有無は解らないがグロウの煽りスキルが意外と高くて、カラードさんのファンに夜道で刺されないかと俺は不安である。ちょっと悔しそうなカラードさんをなだめた後、カリーナさんも魔道力車へと乗り込んだ。
「バン大佐。全員そろったかな?出していい?」
「あぁ、うちのところはそろったな。勇者さん、よろしいですか?」
「こちらも……問題ありません」
運転席にいるアマラさんの呼びかけを介して、バンさんが俺に確認をうながす。車内にいるのはゼロさんとルルルと仙人、それとグロウも中へと入ってきた。ルルルの腕にはキメラのツーさんもついているな。ヤチャがセントリアルにて待機となった為、今回は以上で全員そろっている事となる。
セントリアルとレジスタの面々はアマラさん、カリーナさん、バンさん、ミオさんだから……こちらの陣営の方が人数は多いんだな。でも、魔道力車が予想よりも大きい乗り物だったから、ぎゅうぎゅう詰めで移動しなくていいのは助かった。
「確認よし。出してください」
「ラジャー。出発するね」
バンさんの合図を受け、アマラさんが車を発進させる。エンジンの音などもせず、まるで浮かんでいるかのように車は移動を始めた。車の背後に遠のく街を見ていたバンさんは窓を閉めると、作戦を共にするにあたって改めてミオさんに声をかけた。
「ミオ隊員。任務参加、助かった。よろしく頼む」
「あ……はいっす」
「お姉ちゃんとバンさんがついているわ。絶対に守ってあげるからね」
防衛隊チームの安心感が非常に強い中、こっちはグロウ以外の全員が辛気くさい顔をしていて悩む。俺も励ましの言葉など送った方がいいだろうか……と考えていたところ、空耳かと思うくらいの小さな声が車の後方から聞こえてきた。
「……ぁ」
「……?」
何の声だろう。車の後ろ側についている窓をのぞいてみる。すると、小さくて見えないくらい遠く、何かが追いかけてきているのを見つけた。
「お兄ちゃん。なにがあったのじゃ?」
「え……いや、あれ……なんだろう」
ルルルと一緒に目を細めている内、再びか弱い呼びかけが届いた。それにともなって、魔道力車を追跡してくる影も大きくなっていく。
「……だ」
「……?」
「……くだ」
「……?」
「……僕だ!」
カルマさんだ……このままでは追いつかれる!
第77話の5へ続く






