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第76話の6『睡眠時間』

 セガールさんについてはセントリアル脱出に際して引き車で会ったのが最後なので、そのまま別の街へと移動していったのではないかと考えられる。彷徨いの森で会った時は自分を勇者などと名乗っている不審者でしかなかったが、こんなに世話になるとは予想外であった。


 そういえば、ゼロさんが勇者歓迎祭に来た時、ばっちりメイクでキレイなドレスを着ていたな。俺の仲間の人たちでメイクや衣装選びのセンスがある人も思い当たらない訳で、あれもひょっとしたらセガールさんの見繕いだったのかもしれない。


 ……ずっとベッドで療養していた時は眠ろうにも眠れなかったが、今は10秒くら目を閉じれば意識を失う自信がある。いや、待てよ……俺のケガって、まだ完治してないよな。ということは、今は誰かがかけてくれた魔法が効いていて、痛みを感じていないだけなんじゃないだろうか。


 「……う~ん」


 魔法をかけ直してもらった方がいい気もするが、姫様もアマラさんも俺達との騒動のあとで忙しいだろう。まぁ、どうしても魔法を使える人に会えなかった場合、明日にでもルルルにお願いしてみれば適当に何かしてくれる可能性はある。ということで、今は寝よう。俺は気を楽に持つと、やわらかい布団をかぶって目を閉じた。今回は誰に起こされるでもなく、安心した時間が続いていった。


 「……」


 ふと目が覚める。部屋は暗い。窓からは日が差し込んでおらず、すでに夜になっている事が解る。6時間くらいは寝ただろうか。そう考えながら窓を開いてみるも、眼下に映る街の光が慎ましい。あれ……今、何時だ?


 「仙人……」


 仙人は依然としてベッドで眠っているが、テーブルの上にはおやつの袋が置いてあるからして、起きて食事をとったりして、再び寝た痕跡が見える。もしや、今って深夜なんじゃないだろうか。廊下に出てみるが……やっぱり灯りは薄暗い。人の通りは少なく、見回りをしている隊員さんくらいしか見当たらない。


 まだ食堂はやってるだろうか。あと何時間で夜が明けるかは解らないが、朝ご飯までおやつだけで済ませるのは惜しい。ブレイドさんの言っていた通り、通路に引いてある赤い線を辿って歩いていく。


 「……おおっ」


 曲がり角を進んだ先の暗がりで、立ったまま眠っているグロウを発見して少しビビった。こういう一面を見ると、どんなに人っぽい姿をしていても、やっぱり本質は鳥なんだなと思う。グロウの就寝事情については介入せず、そのまま俺は食堂を目指した。

 

 「……?」


 ヤチャをつれて行ったベランダの辺りで、外から淡い光が入っているのを知った。月明かりかとも思ったが、それは青みがかった光であり、不思議に思った俺は正体をつきとめるべくベランダへと出る。そこには杖を目の前で掲げたまま、目を閉じて魔力を集中させている姫様の姿があった。


 「……」

 「お待ちになって」

 

 ジャマしちゃ悪いかと遠慮し、その場を静かに去ろうとしたのだが、気配を感づかれて姫様に呼び止められてしまった。


 「……姫様。こんばんは」

 「こんばんは。勇者様。で、逃げようとした?」

 「あ……なんか間が悪いかと思いまして」

 「……ほう」

 「あ……すみません」


 あんまり関わりたくないなという気持ちが不意に顔に出たのか、なんやかんや誤魔化そうとしてバレた……。

   

                                第76話の7へ続く


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