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第76話の4『戦力外通告』

 「熱い。日焼けしそうだ……ヤチャ、そろそろ戻るか」

 「おおお」


 ヤチャを十分に光合成させたのち、ゆっくりとストレッチャーを押して俺たちはヤチャの寝ていた部屋へと戻った。あまりにもベランダは日光が強すぎて、ものの20分ほどしか外に出ていないのに肌が黒くなりそうである。ヤチャは未だに体を動かすのが辛そうに見えるが、陽の光を浴びたかいあってか見た目は普段通りであって問題なさそうである。


 ヤチャの汗を拭いたりしている俺達に構わず、グロウは窓の外に浮かんでいる暗雲へと視線を向けている。おそらく、雨の心配をしているのではないと思われる。何か気になることでもあるのだろうか。


 「グロウ。あれ、気になるか?」

 「ん?ああ。ありゃあ、きっとセントリアルの連中が調べに行く場所から流れてきてるぜ。そこのそいつをむしばんでた魔力にも似ている」

 「つまり、魔力の中和ができない人が不用意に近づけば……」

 「死にはしないだろうが、オススメはしねぇな」


 現在、俺たちの仲間内で魔法が使えるのはヤチャとルルルだけだが、魔力に慣れていないヤチャは今の有様である。ルルルは魔法の中和ができるので心配はないだろうし、セントリアルやレジスタの人たちも理解して作戦の準備を進めているだろう。むしろ、そんな怪しい場所に俺が出向いて、他の人の足を引っ張ったりしないかは不安で仕方がない……。


 「トキメイ殿。いらっしゃいますでしょうか」


 おしとやかなノックが聞こえ、それとあわせてブレイドさんの呼びかけが俺の耳に届く。ブレイドさんはアマラさんを探しに行っていたはずだが、ここに来たという事はアマラさんへの書類の提出が終わったと考えられる。俺が扉を開いて会釈すると、あちらはピシッと礼をしてハキハキと用件を述べた。


 「トキメイ殿。今晩のご予定は、どのようにされますでしょうか」

 「今晩……晩ご飯ですか?」

 「ご夕食、ご宿泊に関しまして、ワタクシが承ります故」


 そういや、俺もグロウも仙人も、昨晩から一睡もしてないんだった。いや……俺は気絶していた時間があるから少し寝ているが……さすがに仙人には寝てもらった方がいいな。セントリアルの宿は既にチェックアウトしているだろうし、このブレイドさんの言い方から察するに城の部屋を貸してくれそうな予感はする。


 「あの……ブレイドさん。申し訳ないんですが、泊まれる部屋を貸してもらえると助かります。俺もベッドで眠りたいので」

 「もちろんでございます。皆様のお部屋は手配させていただきます」

 「あと、ヤチャの身体に対してベッドが狭いので、もっと大きいものがあったらと思います」

 「ご案内いたします。皆様、こちらへ」


 再びヤチャを荷台に乗せ換え、ブレイドさんの案内で城の通路を進んでいく。ところで、今回の作戦に参加するメンバーって、すでに決まってたりするのだろうか。機密かもしれない情報なので、こっそりとブレイドさんに尋ねてみる。


 「明日の朝の話って、聞いてます?」

 「はっ。精霊山・ソルより発生しているモヤに関する調査とお聞きしております。この度、アマラ様のご参加が決定していると伺いました」

 

 やっぱり、アマラさんが一緒に来てくれるのか。闘技場では戦闘の機会を逃した人だったから、強さのほどは解らないが……味方でいてくれる分には心強い人だとは思う。あの人なら魔法にも長けているだろうし、魔障にやられる人がいてもフォローはしてくれるだろう。それ以外にも作戦に関して決定事項がないか、ブレイドさんに質問してみた。


 「アマラさん以外の参加者って、決まってたりします?」

 「ワタクシ、本作戦の参加を志願いたしましたが……アマラ様に留守番を命じられました故」

 「そ……そうでしたか」

 「そちらの理由に関しましては、『連れて行ったら死ぬから』でございまし……」

 

 戦力外通告……。


                                  第76話の5へ続く



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