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第76話の1『押さず引かず』

 {前回までのあらすじ}

 俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。セントリアルを中心に魔力による病が広がっていると見て、その原因を調査する作戦に参加させてもらえるようお願いした。出発は明日の朝だから、まだ半日は準備に時間をさけると思われる。


                  ***


 「勇者様たち、バトルマスターズにいるっすか?」

 「たぶん、明日の出発まで城からは出ないと思います」

 「だったら、明日の朝に向かえに行くんで、城の食堂あたりにいてほしいっす」

 「解りました」


 居酒屋での談議が一通り終了し、ミオさんは俺たちと話した内容などなどを記したメモ帳を閉じる。そして、アマラさんを探しに来たブレイドさんと一緒に俺たちへ向けて一つ礼をし、忙しそうな速足で店を出ていった。飯を食い終わって満足そうなグロウはさておき、ここでの話を聞いてからというもの、ゼロさんとルルルは元気が無いように見える。


 「ゼロさん。もしかして、魔法が使えないこと、気にしてます?」

 「……そうだな。私は、もっと勇者の役に立ちたい」

 「気持ちはありがたいですが、無理はしないでくださいね……」


 ゼロさんが俺の為に一生懸命すぎて、逆に俺は何かしてあげられているのか悩ましい。とはいえ、『頑張ってください』と言っても『頑張らなくていい』と言ってもゼロさんの負担になりそうな気がして、あとは俺も言葉が繋がらなかった。話の流れを変えようと、俺はルルルに手ごろなセリフを渡してみる。 


 「ルルル。なんか食べる?」

 「え……や、別にいいんよ。なあ、お兄ちゃん」

 「ん?」

 

 他の人に聞こえない小さな声で、しどろもどろにルルルが確かめてくる。


 「精霊山・ソル……本当に行くん?」

 

 『精霊山・ソル』……たしか、怪しい魔力が流れてきているという山だったな。今は他に魔王四天王の手がかりもないし、もし四天王がいたらセントリアルやレジスタの人たちでも苦戦を強いられるだろう。以上の理由から俺は同行すべきだとは思うが……精霊という単語からしてルルルに所縁がある山なのだろうか。

 無理にルルルを作戦へ参加させる必要はないかもしれないけど、今の今まで登場人物として掘り下げのなかったルルルに関係していそうな場所である。きっと連れていくべきなのだろうが、あえて押さずに引かずといった答えを返してみた。


 「俺は行くつもりだけど、どうしたい?」

 「……ちょっと、考えてもいい?」

 「うん」


 それだけ俺に告げると、ルルルはキメラのツーさんを持って居酒屋から出ていった。すると、手元の資料を読んでいたゼロさんも席から立ち上がり、俺の顔をじっと見つめつつ、淡々と言葉を取り出した。


 「私は、少し試しておきたいことがある。勇者。次の朝に合流する」

 「あ……解りました」


 ゼロさんも店を出ていき、これにて女の人は全員が撤収してしまった。残っているのは仙人とグロウであるが……なんだろう。久々に周りが男の人だけになったら、それはそれで落ち着く。学校で男友達とつるんでる感じだろうか。仙人は年齢的に校長先生っぽいが……。


 (勇者。ヤチャのとこ、行くか?)

 「ですね。お腹も空いてるでしょうし、ここで弁当でも買っていきましょう。グロウ、一緒に行くか?」

 「なんで?」

 「いいじゃん」

 「……まあ、別にいいけど」


                            第76話の2へ続く



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