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第75話の5『信頼』

「魔障とやらの原因究明に役立てるかは解らないですが、俺たちも調査に同行していいですか?」


 さっき聞いたグロウ流のデトックス法もヤチャに試してみるとして、あとは魔障とやらが発生している現場を見てみないと話は進展しないと思われる。俺の申し出にミオさんは頷いてくれるが、姫様は意外そうな顔で俺に聞き返した。


 「勇者様は、我々との契約をあまり好ましくは……どうして?」

 「えっと……俺達は、契約はしてないですけど、なんといいますか……敵ではないですよね」

 「ええ……」

 「だから、信じてさえもらえれば、仲間にはなれると思いますよ」

 「……」


 互いの関係を保つための契約をしていないってことは、ちょっとした気持ち次第で裏切る可能性があるということだ。それが姫様にとっては嫌なのかもしれない。でも、そんな状況の中でも一緒にいるってことが、わりと重要なんじゃないかと俺は思っている。

 まあ……俺はゼロさんと恋人になりたいから、姫様と結婚してしまうと困るという勝手な理由もあるのだけど、信頼という部分を大事にしたい気持ちは本当である。


 「あの、勇者様……」

 「はい」


 しばし、不安を表情に出していた姫様だったが、胸に手を当てて目を伏せると静かに語りだした。


 「ワタクシ、お願いがございます。ええ。聞いていただいて……よろしい?」

 「なんですか?」

 「……ワタクシ」


 どうしたのだろう。思い詰めたような口調で、しどろもどろながらに姫様は言葉を繋げる。


 「ワタクシの身体は、どうか好きにしていただいて構いません。でして、ゼロさんの身体には手を出さないでいただきたく!」

 「なにを言ってるんですか……」

 「なにを言ってるっすか……」

 「なんなんよ……」


 なんか突拍子もないことを言いだした為、俺と同時にミオさんとルルルからもツッコミが入った。前触れもなく自分の名前が出たせいか、ゼロさんも驚いたように手元の資料から顔を上げる。


 「あの、姫様……子どもが見てるので」

 「あっ……ごめんなさい」


 どう反応していいのか解らず、ひとまずルルルを出しに使ってみたところ、純粋に謝られてしまって逆に困惑した。俺たちが次の一言に悩んでいる中、特に迷いもなくルルルが質問に踏み込んでいく。


 「そもそも、あんた。ゼロちゃんのなんなんよ」

 「……なにとは?」

 「関係性として、なんなんよ」

 「それは……こ」

 「こ?」

 「こい……」

 

 こ……という一言だけが姫様の口から出たものの、その先が語られるより先に姫様の頬の紅潮が際立った。そのまま、自分とゼロさんの関係性を示さぬまま、姫様は力ない絶叫を残して逃亡した。


 「そ……そんなこと……ひゃああああぁぁぁ」

 「……あ、逃げた」

 「ルルル……ダメだ。深追いはするんじゃない」


 追いかけようとするルルルを制止しつつ、姫様が逃げ去っていった居酒屋の出入り口を見つめる。すると、そこにはブレイドさんがいて、どうにも都合悪そうに立ちすくんでいた。


 「勇者様……こ……これは」

 「あ、ブレイドさん」

 「……修羅場?」

 「違います……」


                                第75話の6へ続く


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