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第74話の6『小悪魔さん』

 ルルルとミオさんがカルマさんの妹さんの治療を始め、室外待機を命じられた俺たちが待つこと10分。いまやカルマさんとの話題も絶え、室内から聞こえてくる女の子同士の小さな会話に耳を傾けている。


 「ミオちゃん。皮はキレイに剥げそうなん?」

 「あー……いけるかもしれないっす。爪は無理かも」

 「そうなんな」


 そのやりとりだけ耳にすると拷問にかけているようにしか聞こえないが……2人はカルマさんの妹さんを治療していて間違いないのだろう。ただ、2人の会話の内容や、メリメリという何かをはぐ音が怖すぎてか、すでにカルマさんは耳をふさいで震えている。


 「魔力、まだ浸透しそうっすか?」

 「う~ん……もう今日は無理だと思うんよ」

 「あのぁ……もう服、着てもいい?」

 「あ、着ちゃってくださいっす。もうやれることはやったと思うんで」


 それから数秒後、妹さんが衣服を着終わったらしく、ミオさんを扉を開いて俺たちに入室許可を出す。カルマさんの妹さん……確か、アビスさんと呼ばれていただろうか。彼女はミノムシみたいに布団にくるまっており、そこから顔だけ出しながら涙で真っ赤にはれた目を俺たちに向けている。もうアビスさんの体は大丈夫なのか、俺は事の顛末をルルルに確認する。


 「もう治療は終わったのか?」

 「一度じゃ治しきれなかったから、今日はお終いなんよ。一度に大量の魔力を注入すると、それなりに負荷はかかるんよね」

 「そうか……というわけなので、俺たちは帰りますね」


 カルマさんに関する用事は終わったと見て、俺はルルルとミオさんを連れてレジスタに戻ろうとする。そんな俺の服の背中を控え目につかみ、カルマ隊員がお願いするようにして引き止めた。


 「……勇者さん。妹を見ないで帰るんですか?僕は驚きを禁じ得ない」

 「でも、2人は治療が終わったって言ってるし、きっと問題ないですよ」

 「勇者さん。あの治療中の声を聞いて、なお僕を一人で残すんですか?驚きを禁じ得ない……」

 「……ですね」


 正直、アビスさんの体が荒治療で酷いことになっているのではないかという恐れがあり、布団の下を見ないで帰る作戦だったのだが……さすがにカルマさんが可哀そうかと思い直した。ミオさんとルルルも特に心配している素振りを見せないからして、治療行為の荒さに対して容体は酷くないのかもしれない。


 「アビス。僕は目を細めているから、その内に布団から出るのだ」

 「う……うん」


 目を細めても見えるものは見えると思うのだが、気休め程度にはなるのかと考えて突っ込まずにおいた。そんな俺も、なんとなく目の前にルルルを立たせているのはビビっている証拠である。やや恥ずかしそうにアビスさんが布団をどかし、小柄な体の全容を明らかとした。


 「……ん?」


 アビスさんはパジャマを着ているのだが、その尻からは黒くて長い尻尾が生えている。ややクセっけのある髪からは羊のようなツノが見えていた。それ以外は特に痛々しい部分も人間離れしたところも見当たらない。あ……ずばり。これはいわゆる。


 「悪魔っ娘ですね……」


                                第75話へ続く


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