第23話『貫通(これで二度目ですね…)』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公と自覚していたはずだったのだが、気づくとバトル漫画風の世界に飛ばされていた。街が魔物になってしまったとの伝達を受けたが、夜が来る前に研究所へは戻れなかった為、木の中にある小さなスペースで夜を越した。朝になったら近くにミサイルが墜落していて、それが気になる俺。
大樹の根の上から見下ろした地面にはミサイルみたいなのが突き刺さっていて、あふれ出ている煙からして着陸したというより墜落した模様だ。ミサイルの装甲部分についている塗装がオシャレな花柄だから敵ではないと判断できるが、ひとまずゼロさんたちの安否を確認しよう。
「ゼロさんー?無事ですかー?」
「ゼロさんでなくて私ですが、とりあえず無事っすー!」
焚火のあった場所にはミオさんがいて、ゼロさんの代わりに元気な返事をくれた。
「ああ、テルヤ君!私も無事だ!」
ミサイルについている丸い窓が押し開けられ、そこから博士が上半身を乗り出している。ミサイルは博士の移動手段だったらしい。しかし、ゼロさんの姿はない。
「博士。どうして、ここが解ったんですか?」
「今朝がた、ゼロが研究所へ到着したので、夜なべしてこしらえた新作で迎えに参った」
「心配をかけてすまない。私も無事だ!」
よっこらっせっしょんとの掛け声でミサイルを降りた博士に続いて、ゼロさんもミサイルから脱出する。博士の説明によると夜を駆けたはずなのだが、妙にゼロさんはハツラツとしている。よなべした博士もビタミンCのおかげか元気である。
「いや、私。夜更けにゼロさんと番を交代したんすが、寝るのかと思ったら研究所へ行くといって闇夜に消えていったっす……」
「なぜか、じっとはしていられなかった」
悩むとテンション上がる人なのだろうか。その悩みの種は俺だと思うけど、そこで気まずくならないよう配慮した末のハイテンションだと思われる。そこに甘えて、俺も普通に会話を進める。
「……あれ?仙人はいないんですか?」
「ああ。彼は街の様子を伝えるため、研究所に残ってもらった。ガラス板を貸してほしい」
仙人がレンズを持っているとして、その映像を投影するガラス板は俺たちが所持している。どこにあったかな……と全員で探してみたら、ミサイルから少し離れた場所で粉々のガラス片が発見された。
「……割れたな。割れてしまったな」
「まあ、かなりの衝撃でしたからね……」
ミサイルを豪快に着弾させた博士は、『割れた』との表現を選んだ。まあ、その辺りにガラス板を放っておいた俺も悪い。そして、レンズ片手に街を撮影している仙人が気の毒である。
以上のイキサツにより、街やヤチャの様子は確認不可である。どちらにせよ、街へ入るには研究所へ戻る必要がある為、そこまで問題はないと見える。
「さて。ゼロに呼ばれてテルヤ君たちを迎えに来たものの、どうして街へ侵入するか、その問題が残っている」
「……ええ?研究所の扉からは戻れないんですが?」
「ああ。あの扉にも浸食が見られ、すでに開く事もままならなかった。地上への被害拡大を防ぐ策として、壁ごと扉は破壊する始末となった」
「あれって、魔法で作ったドアだと思うっすけど、また作れないんすかね?」
「穴を二つ用意し、両方へ魔力を流さねば繋がらない。ようは、街へ侵入しなくては叶わない」
ミオさんの提案も折れてしまい、あとは……バリアの張られていない街の入り口を通るしかなさそうだけど、魔物となった街に入り口が残っているのであれば、博士は侵入工程の時点でつまづいたりしないと考えられる。
「現在、バリアや魔物の肉体で覆われている街へは突入する術がない。しかし、過去に一度だけ、バリアを突破して街へ侵入したものを私は知っている」
「……それは誰なんですか?」
「多分、勇者様一行じゃないすかね?」
「……あ」
言われてみれば……というか、街で俺たちが警備隊に包囲された時、そこにミオさんもいたんだろうか。
「どのようにしてバリアを突き抜けたか、詳しく聞かせてほしい」
その場にはゼロさんもいたはずだけど、街と衝突する瞬間に俺が何をしていたのかは知らないらしい。そこで、俺は空飛ぶ乗り物となったパワーアップの塔が、どのような機能を持っていたのか博士に伝える。
「一瞬だけバリアを張って貫通した……と思うんですが、科学的には解りません……」
「通常、バリアへ先にダメージを与え、穴を作ってから入るのが礼儀ではないかね?」
「それは失礼いたしました……」
ヤチャがこじ開けられない程のバリアとなれば、並みの攻撃じゃ歯が立たないだろう。つまり、あれは偶然的にセキュリティホールを貫いた現象である。そうと解れば、博士は今すぐにでもミサイルへ上半身をつっこみ、何かをガチャガチャといじり始めた。手を動かしつつ、解説も怠らない。
「ああ。街のものよりも更に強力なバリアで磁場を捻じ曲げ、その中を潜り抜けるのだな。知れば容易く、知らねば摩訶不思議。面白おかしいではないか」
博士の口ぶりからして、バリアへの対策は難しくない様子だ。ただ、博士が危険を顧みない人であることを知っているミオさんは珍しく少し慌てている。
「いやぁ……博士。例えば、もし博士が帰らない人となれば、街の機能も兵器も、全てが未知の脅威になっちゃうんすよ。絶対、洞窟を調べに行くのとは危険度が比じゃないっす」
「今回の責任は全て、ツーを生み出した私にある。黙って見てはおれない」
「俺が言うのもなんですがお……責任というのは生き残った人がとらないといけない訳で、博士が危険をおかすのは得策でないんじゃないかと」
「ああ。そのために、ここへ来た。最も頼りになると思う者を指さしたまえ!せーので行くぞ!」
スッとコチラを向いた博士は急な質問を投げ、すぐさま呼びかけを続ける。
「せーのっ!」
……ずるいよなあ。この面子で、俺が女の子を指さして街へ差し向けるはずもなく、そうなれば自分を指さす他ない。そして、勇者の名を冠しているからか、ミオさんとゼロさんの指先も俺に向いている。頼られて少し嬉しい反面、だましているような罪悪感すらある。こういう時、なぜヤチャがいないのかと非常に悔やまれて止まない。
「ミサイルは3人乗り!残る二席は、テルヤ君とゼロに託そう!私をサポートしてほしい!」
「これ……飛べるんですか?墜落してるように見えますが」
「ああ。地面に突き刺さっているほうが下側だ。問題ない」
とがっている方にジェットがついていて飛ぶと。で、逆側には鍵爪のようなものが生えていて、それで街の外壁を突き破る。着陸する際は尖った部分が地面に刺さる。理にかなっている気もするけど、凡人の俺には判断がつかない。
「出発しよう。ミオ隊員は研究所へ戻り、我々が城の奪還へ向かったと通達してほしい」
「お話は分かりました……報告は僕、カルマ・ギルティにおまかせを!」
いつからいたのか、カルマ隊員は勝手に連絡係を承って、ガッツポーズながら森へと去って行った。すると、役目を失ったミオさんはゼロさんの手をとりつつ、応援の言葉を探っている。
「……ゼロさん。博士をよろしく頼むっすよ!」
「任せてくれ。それに、今回は勇者もいる」
「勇者様……無責任に指をさしてしまって、すみません」
「俺は、やるだけのことをやりますよ。博士、行きましょう」
「ああ」
自信があるから見栄を張るのではない。格好つけたいから見栄をはるのだ……などと当たり前のことを考えて正当化しようとしてみるけど、今の俺はパンの一つも入らないくらい胃が収縮している。こんなチキンレースが、いつまで続くかは俺にも解らない。
無言の笑顔でミオさんに見送られ、逃げ込むようにしてミサイルの中へ。内部には向かい合う形で3つのシートがあり、先に入った人が座らないと次の人がミサイルへ入れないくらい凄く狭い。俺が目の前にあったイスへと座ると、ジェットコースターの安全バーみたいなものが下り、自動的に腕や足もベルトで固定された。
「博士……これは」
「それがないと、目標へと衝突した瞬間に勢いで死ぬ。しばしの辛抱だ。ミオ隊員、出入り口を閉めてくれないか?」
「はいっす!では、ご健闘を!」
ミサイルの入り口は閉じられた……もう引き返せない。
「テルヤ君!ゼロ!心と体の準備はよろしいかな?」
「こちらは構わない。勇者」
「……ところで、ツーさんを倒す作戦はあるんですか?」
「ああ、準備万端だ!舌をかまぬよう気をつけよ!ジェットで、GO!」
爆発音が聞こえ、3度目の爆発で体に大きなGがかかった。ミサイルがジェット噴射しているからか、ミサイル内部の温度も急上昇している。頭上の鉄板が開き、そこから空が見える。あっというまにレジスタの街は近いらしく、博士がバリアへの突入を予告する。
「そろそろバリアを貫く時だ!」
「こ……このミサイル、バリア機能もついているんですか?」
「ああ。バリアのないメカなどないぞ!」
ロボメカ作品については詳しくないが、そういうものだろうか。ビリビリと磁場の弾ける音が鳴り響き、空の色が薄緑色に変わる。1秒だけミサイルの進行がストップし、膜を破るがごとく再発射。その後、気づくとミサイルは竹を割ったように分裂し、なぜか俺の席だけ離脱していく……。
「あの、博士……これは?」
「すまない!間違えて緊急離脱スイッチ……」
そこまでの釈明はうかがえたが、もう俺は風の中にいる。博士の声は聞こえない。
「……って……ぎゃああああああぁぁぁぁ!」
空気の圧力と凄まじい風にやられて白目をむいてしまった為、その後は何が起こったのか解らない。ブチブチィという筋の絶ち切れる音ミサイルの外でなり、意識を取り戻した時には俺の乗っているミサイルの一部が紫色の壁に突き刺さっていた。
安全レバーやシートベルトは外れていて、俺は仰向けのまま不気味な色の天井を見ている。身を起こして辺りを見回すと、そこは街の上層にある広場……のような場所であったが、街の至る所には紫色の器官が伸びていて、壁は臓器のように脈をうっている。
「……うわあ」
地面に足を下ろす。謎の粘液がくっつき、靴の裏で糸を引いている。街が魔物と化した……というより、魔物が街と同化した、という方が自然かもしれない。
とにかく、博士とゼロさんの無事を確認しなくては。確か、下の階へ降りるハシゴが近くにあったはず。俺は手すりのある場所から下方をのぞき見た。すると、そこから細長い腕が生え、下へと引きずり込まれそうになった。
「……なんだっ!これ!」
間一髪のところで掴みをかわし、そこから急いで距離をとる。どこからか甲高い声が聞こえてくる。
「ああああ……エサが自分から入ってきたねえ。かわいいいいいぃねえぇ」
目の前の地面がメキメキと盛り上がり、それは次第に人の形へ整っていく。灰色の筋肉が黒い骨へと不細工に貼り付いている。姿こそ全く違えど、その声には聞き覚えがあった。俺は目の前の脅威に察しをつけつつも、じりじりと後ずさりした。
「あなたは……キメラのツーさん!」
第24話へ続く






