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第74話の3『出張』

 「はぁ……はぁ……くっ!今なら……今なら、言えそうな気がします!ちょっと!よろしいですかああぁ!」

 「おぉ、いいぞ」


 結局、カルマさんが気持ちを整えるのには5分くらいかかり、待っていられずに俺たちは魔障の話などを進めていた。バンさんの気さくな承認を得た後、カルマさんは吐息をもらしつつ静かに語り始めた。


 「僕の妹はセントリアルに……でも、最近……体の具合……はぁ……はぁ」

 「それは大変だね。それなりに魔法が使える人ならば、一時的に中和することはできるだろう」


 カルマさんの声が緊張により息も絶え絶えであり、その内容は単語単語でしか聞き取れなかった。ただ、アマラさんが返事をした通り、くしくも用件らしきものは絶妙に伝わっていて驚きである。そして、これでこの人が隊の連絡係だというのだから、それが一番の驚愕ポイントである。


 「ぼぼぼぼ……僕の妹!助けてくださぁい!魔法が使える人!誰かいませんかぁ!」


 アマラさんとルルルは誰かが手を上げないかとチラチラ見ながら待っていて、このままでは埒が明かないので姫様が手を上げてしまう。そうなってしまったら、姫様が指名されるのは当然の結果である。


 「じゃあ、その人でいいや。うち来てください!」

 「ちょっと、カルマ君?その人、姫様なんだけどぉ?」


 バンさんに注意されるが、もうカルマ隊員はなりふり構わない。ていうか、姫様の顔くらいおぼえていてよさそうなものだが、記憶していないのがカルマ隊員である。当の姫様はというとイヤな顔をするでもなし、急に弱々しい声色で俺に語り掛けてきた。


 「力になりたい。これが、ワタクシの本心。でもね……ワタクシ1人の力では、とてもではないが心もとない。そこで、勇者様。そちらの方に手助け願えないかしら?」

 

 そちらの方……と手を向けられたのはゼロさんである。


 「……え、私?」


 ゼロさんは戸惑ったような挙動をとりながら、短く疑問を口にしている。そもそも、ゼロさんは今の姿では魔法が使えないので、手助けになるはずもなく……むしろ、姫様くらい魔力があれば助けはいらなさそうである。ゼロさんが姫様に何かされてはいけない。そう奮起し、俺はルルルを持って立ち上がった。


 「この子、魔法が使えますよ」

 「助かります!勇者さん!なぜ最初に名乗り出てくれなかったのかは疑問ですが」

 「お兄ちゃん!せっかく、知らないふりしてたのに!」


 ルルルに腹をバシバシ叩かれたが、これもゼロさんが襲われないようにするためだ。そして、カルマ隊員……いつも一言多い。


 「善とあらば大急ぎです!今すぐ来てくださぁい!」

 「え……今?」

 「ささ。こちらへ」


 今すぐにでも妹を楽にしてあげたい一心か、その場で連れ出されてしまった。会議についてはゼロさんに頼み、ゼロさんの身を守る役目は仙人に託して、俺とルルルはカルマさんの案内でセントリアルへと向かった。なお、レジスタの街のエレベーターは下りの方が心臓に悪すぎて、俺が途中で吐いたのは悲しい事実である……。


                              第74話の4へ続く


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