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第73話の3『ありがとうってなんだよ…』

 「勇者。これから、どうする」

 「そうですねぇ……」


 そうゼロさんに聞かれ、今後の動き方などを俺は考え始めた。姫様を闘技場で恥さらしにしたゼロさんが隣にいて話になるかは解らないが、セントリアル防衛隊の方々と交渉はしてみた方がいいかもしれない。それに、まだヤチャが眠っているからして、闘技場から運び出すのは全員でかかっても苦労しそうにも思う。

 みんなでヤチャを持って控室へ移動し、ひとまず長椅子に寝かせた。俺は上着を脱いでヤチャにかけ……かけても前掛けレベルにもならないが、ないよりはマシであろう。そこで改めて、これからの予定をゼロさんに伝えた。


 「セントリアル防衛隊に入るつもりはないですが、協力はしていければと考えています。再度、姫様へ打診してみようと思うんですが……ゼロさん、一緒に来てもらえますか?」

 「ああ、構わない」

 「おい、勇者。一つ聞いていいか?」

 「なに?」


 俺たちの話を横で聞いていて疑問があったらしく、控えめに手を上げつつグロウが質問を始めた。


 「さっきの試合……結局、なんだったんだよ」

 「……これくらい戦えますよっていうデモンストレーションかな」

 「難しい言葉を使うな。おらぁ、頭が悪いんだぞ!」


 言うほど頭は悪くない気はするが、むしろ横文字を使った俺も悪かった。納得して頂くためにも、ここへ来てからの経緯などを一通り説明する。


 「……くだらねぇ。魔王ほったらかしで、人間同士でやりあってんじゃねぇよ」

 「えっ……」

 「……なんだよ?」

 「いや……お前って、実は……すごく『まとも』なんじゃないかと思って」

 「おめぇ、ケンカ売ってんのか?」

 「あ、ごめん……」


 ずっと俺が思っていたことを一言で片づけられてしまい、なんだか拍子抜けしてしまった。魔王や四天王が何を企んでいるか解らない現状、戦力を奪い合ったり削り合ったりするのは合理的ではない。それを誰かに言ってほしかったのだが、まさかグロウに言われるとは思わなかったから少し驚いてしまう。


 「じゃあ、俺は行くぜ。修行して、次はお前を負かしてやる」

 「ああ、うん。気をつけてね」

 「気をつけてねってなんだよ……」

 

 グロウが控室を出ていき、俺は姫様への謁見を頼めないかとアマラさんの方へと向き直った。そしたら、グロウが扉を開けて戻ってきた。


 「やっぱ、一緒に行くわ」

 「なんでだよ……」

 「ここで逃がしたら、もう会えねぇかもだろ?もったいねぇから一緒に行く」

 「……そうか。ありがとう」

 「ありがとうってなんだよ……」

 

 俺も『ありがとうってなんだよ』……とは自分で思ったが、また困ったら助けてくれそうな気がして口走ってしまった。ありがとうってなんだよ……。


                                第73話の4へ続く



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