第72話の6『咆哮』
力と力のぶつかりあいは、またしてもヤチャが競り負け、ステージ上から弾きだされる寸前でヤチャは床に爪を食い込ませ踏みとどまる。飛べば楽に復帰できるものだが、それをあえてしないということは、この勝負に魔力の類を使うつもりはないと見られる。
「ほぉ……魔法、使わないのか?」
「……ふふふふ」
強気な笑みを絶やさぬままヤチャは駆け出し、目で追えないほどの勢いをつけてシュッパさんにパンチを打ち込む。拳には拳とばかり、ヤチャの攻撃を攻撃で返し、2人の拳は鉄を打ち合うような音を立てて激突している。フットワークを多用しているヤチャに対し、シュッパさんは一歩も動かない。打っても打っても揺らぎすらしない、まるで鋼鉄の壁だ。
「ふっ!はあっ!」
「……そこッ!」
バシュバシュバシュバシュバシュと激しい音を放ちながら猛攻を続けるヤチャの隙を見逃さず、シュッパさんのブローがボディへ入いる。そうしてひるんだところへ、腰を低く構えながら、もう一方のの拳を振り上げる。
「信念!バスターカノン!」
「うごぉ……ッ!」
シュッパさんの強烈なアッパーに打ち上げられ、ヤチャが天高く舞った。そのままヤチャは力なくステージへと落ち、この勝負において初めて背をつける形となった。試合の流れができ始め、会場の歓声も一際の盛り上がりだ。レフェリーさんも頑張って舞台へと上がり、今の一撃について解説をくれる。
『き……きまったあああぁぁぁ!シュッパさんの急所をつく一撃!大技の炸裂!こりには破壊の帝王、たちあげられうあかかあああああああああぁぁぁぁ!』
熱い戦いを見て興奮しているからか、レフェリーさんはメッチャ噛み噛みである……それより、ヤチャは大丈夫なのだろうか。ガラス越しにステージを注視している俺の横で、姫様が何か思うようにつぶやいた。
「……魔力を使わないのか」
「……?」
シュッパさんが魔法を使わないのか、使えないのかは俺には解らない。でも、相手にあわせてヤチャが魔力を使用していないのは確かだ。勝ちにこだわるならば、卑怯だろうとなんだろうと戦いようは幾らでもある。そう俺が疑問に思った最中、ヤチャは手足を精いっぱい使って、震えながらも懸命に立ち上がった。
「ほお……まだ立つか」
「当たり前……だぁ!」
そして、戦闘の姿勢を整えつつ、ヤチャは大きな声で叫んだ。
「オレサマ……テルヤァが……好きだからあああああああああぁぁぁぁ!」
大胆な告白が会場に響き渡る。もちろん、恋愛的な意味でないことは聞いて確かなのだが、姫様が目を細めて俺を見るからして、念のために言い訳はしておいた……。
第72話の7へ続く






