第72話の4『選手交代』
グロウとシオンさんの勝敗が決し、倒れたシオンさんはセントリアルの隊員さんたちによってストレッチャーで運ばれていった。ただ、勝利した側とはいえど、グロウも見た目は無事とは言い難い状態であり、早く手当てをした方がいいのは明白である。
「次、出てきやがれ!軽くひねってやる!」
グロウは次の試合が待ちきれないとばかりに威勢がいいのだけど……これ、どうなったらチームの勝敗が決まるのだろうか。これは姫様に聞いておいた方がいいな。
「あと何人、勇者チームが勝ったら終了するんでしょうか……」
「勇者様のお仲間の内で、実戦を担当しておられる方は多く見て3名。こちらも実力者が3名、お相手する」
ああ、それで控室にいた仙人が自分が出ると言い出したり、ルルルが観客席から探してくるとか言っていたりしたのか。とすれば、やはりグロウは誰かに頼まれて出てきたわけではないんだな。むしろ、俺が引き車から誘拐された後、あいつ……俺を追いかけて街に戻ってきたと見える。まあ、お疲れ様である。
セントリアルの実力者3名……つまりは、強さ順で上から3人となるはずだ。誰が出てくるのだろう。そう考えながらステージを見つめていたら、シオンさんに代わって俺の知らない誰かが登場した。
「……ん?」
その人は上半身裸で、下に着ているのもラフなズボンだけ。パンパンに膨らんだ筋肉と屈強な体格が存在感を放ち、顔立ちも堀が深くて目つきが厳しい。武闘派衆の一人なのだとは思うが、あんな人もいたんだな……などと観察していたら、姫様が彼の名前を教えてくれた。
「こちらの2番手。シュッパさんにお願いしたわ。ご覧になって」
「……え?シュッパさんなんですか?」
ああ、シュッパさんだったのか。いつもは兜や鎧を着こんでいるから、体つきや顔については記憶になかったんだな。でも、前に会った時は確か、大きな剣を持っていた気がする。今日は何も武器を持たず、腕を組んだままグロウを見つめている。
『セントリアル2人目は、岩石のような男・シュッパ隊長だあああぁぁぁ!」
こちらもシオンさんに負けない人気のようで、観客たちの声……どちらかと言えば、男の人の声援が力強く聞こえる。グロウが体つきとしては細めな分、シュッパさんの大きさが非常に映える。次の戦いに備えてグロウは刀を握りなおしているが、なぜかシュッパさんは仁王立ちしたまま全く動かない。
「なんだ?やる気あんのかよ?」
「む……やる気はない」
「……ああ?」
スピーカーのようなものを通して、ステージでの会話が俺のいる部屋まで聞こえる。自分で上がってきたのだから試合をするつもりはあるのだろうが、シュッパさんはグロウと戦う意欲を見せない。困惑しているグロウをよそに、シュッパさんは控えにいるヤチャを指さした。
「君……やれるか?」
「……ふふふ。当たり前……だぁ!」
ヤチャがステージへと上がり、長身の筋骨隆々の人が2人、不敵に笑いながら対峙する。だが、除け者にされたグロウは納得がいかない様子であり、すぐにシュッパさんに対して抗議を始めた。
「あぁ?おい、俺を無視すんな!」
「君……強いな」
「……?」
「……無駄に黒星をつけることない。休みたまえ」
パシッとシュッパさんがグロウの背中を叩く。するとグロウも相手の意図を理解したのか、不服そうながらも捨て台詞を吐いて、ゆっくりと控え席へ歩き始めた。
「……まあ、いいぜ。オメェくらい、いつでも遊んでやらぁ!」
「……やぶさかではない」
グロウがステージを降り、改めてヤチャとシュッパさんが向き合う。頃合いを見て、レフェリーさんが試合の合図を出そうとした。
『それでは、セントリアル武闘派衆、シュッパさん!対して……』
「待て」
『え……』
「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
レフェリーさんの声を制して止めると、ヤチャは気合を声に込めて吐き出し始めた。それが最高潮に達した時、ヤチャの着ていた胴着の上半身がパッと破け散った。
「む……」
これで同じ条件とばかり、上半身裸で2人がにらみ合う。
「ふはははは……」
「くくく……」
これは凄い戦いが始まる。そんな予感が俺はしている。それはさておき、2人が何を笑っているのか、俺には今一つ理解できない……。
第72話の5へ続く






