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第21話『カルマ隊員(街がヤバい…)』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。レジスタの街という場所で色々あって、今は全く別の場所にある山の洞窟へと来ており、やや情緒不安定な隊員をなだめている。


 「勇者。彼は?」

 「あ、おかえりなさい。こちら、警備隊の人だとは思うんですけど」 

 「僕は警備隊たいだいだいいちぶぶぶのポポマママママ」

 「君、深呼吸だ。そして、これ!」


 街がヤバい。その一言を皮切りにした隊員の人のセリフは実が出てこず、そうこうしている内にも洞窟の中を調査していたゼロさん達が帰ってきた。博士は隊員の人を落ち着かせようと、深呼吸をすすめたり、レモン汁を飲ませたりしている。


 「酢ッ!でも、安堵の息が出ました。すみません。とろみ……とりみだしてしまって……」

 「それで、街がヤバいとの事ですが、いったい何が……?」 

 「そうです!レジスタの街が……ッ!ハァ……ハァ……ヤバいィ!」


 そう言い出した隊員の人は目を見開き、またハァハァと苦しみ始めた。その横で、全くの別件を持ち上げて精霊様が激怒しとる。


 「そうじゃ、博士!これ、映してる方は何が映っているか解んないから、あんまり面白くなかったんよ!」


 「そうか。それはすまなかったね。これをあげよう」


 「なんじゃこれ……むぇ~!」


 だまされた精霊様がレンズを博士に投げ返していて、詫びとして博士から水筒をもらっている。中にはレモン汁が入っている訳で、飲んだあとの表情も、お察しの通りである。


 「……そうだ。ミオさん。彼から話を聞いてみてほしいんだけど」


 ミオさんは同じ隊員だし、この二人ならば緊張せずに話せるかもしれない。俺はミオさんに彼の説得を頼んでみた。


 「カルマ隊員。落ち着いて状況を報告するっす。街で何があったっすか?」

 「ミオ隊員……解りましたァ!僕、頑張ってみますゥ!」


 カルマが彼の名前だとすると、さっき言いかけていたポポママママは何だったのか。名前とキャラクターだけ見れば、俺やミオさんよりもメインキャラっぽくて、これいかに。


 (こうしている内にも、さっさと街へ戻るが吉では?)

 「仙人の言う通りであろうな。私も合理的な大人だよ」

 「ま……待ってください!正確に報告しないと、連絡隊に任命された僕の立場が……」

 「なぜ、この人に任命してしまったんだ……そっちの方が俺は気になる」


 仙人が真っ当な意見をテレパシーで伝え、博士も左に同じ。かくいう俺も同じ。しかし、事実を報告しようというカルマさんの意思は強く……というか、連絡隊としての立場を気にするあまり、それも相まってハァハァが加速してしまう。それがおさまるのを待たず、博士は話を合理的に進めている。


 「では、こうしよう。私と仙人は先に行って街の様子を確認するから、テルヤ君たちはカルマ隊員の報告を受ける。後々、答え合わせをしよう。どうだい?」


 「それがいいと思います。博士、仙人、街をよろしくお願いします」


 そう博士に答えたのは、俺ではなくカルマ隊員である。シニアの人たちは体よく逃げ出し、なぜか俺たちはカルマ隊員から話を聞きださなくてはならないミッションインポッシブル。


 「よろしくお願いします。テルヤさん。皆さん。僕はカルマ。カルマ・ギルティ」

 「お……おぉ」


 こうなったら、手早く要件を聞いて博士たちと合流しよう。ひとまず洞窟から出ると、俺はカルマ隊員と向き合い聞く姿勢をとった。カルマ隊員の言葉をじっと待っているのだが、なぜか恥ずかしそうに目をそらされてしまう。


 「テルヤさん……あまり見つめられると」

 「ええ?」


 俺だって男と見つめ合いたくなんてないわ。そいで視線を外すと、そっちには精霊ルルルがいた。


 「勇者、こっち見んなじゃんよ」

 「ですか」

 「……」


 虐げられている視線をゼロさんに向けてみたが、やっぱり顔を背けられた……俺、そんなに目つき悪いかな。


 「カルマ隊員。落ち着いて状況を報告するっす。街で何があったっすか?」

 「ミオ隊員……ありがとうゥ!頑張ってみますゥ!」


 そのやりとり、25行くらい上で見たけど。


 「君、私たちは急いでいる。速やかに頼みたい」

 「す……すみません!殺さないでくだだだだ!」

 「いや、殺しはしない。静かにしてくれ」

 「殺さなくだだだだままままちょちょちょ!」

 「……精霊様、ちょっと」


 ゼロさんがカルマ隊員を恫喝している……訳ではないのだろうが、傍目に見ると殺人の5秒前である。何を思ったか、ゼロさんは生意気ルルルを連れて向こうへ。小さく二人の会話が聞こえる。


 「……私、そんなに怖いですか?」

 「めっちゃ怖いんよ。お面、取ったら?」

 「それは……ちょっと」


 それなりに見た目の怖さを気にしていたらしい……しかし、意地でも仮面は外さない。外したら外したで仮面よりも怖い可能性もあるから、無理強いするのもよくない。


 しかし、らちがあかないな……俺はブレている話を本題へと戻した。


 「カルマさん。街の話ですが……」

 「それを聞きますか?僕に」

 「それを話に来たはずじゃ……」

 「あまりにも凄惨な光景を目の当たりにしたせいで、体が頭に追いつかなくて……」

 「なるほど」


 そこまで凄いことになっているのであれば、これだけ取り乱してしまう気持ちも無理すれば理解できると同時、こうして悠長に雑談している場合ではないと改めて危機感を持つと同時、この人を派遣してしまった本隊が一番のパニックに陥っているであろう事を察した。


 あちらから情報が出てこない以上、こちらからアプローチをかける他ない。考えられる範疇で最もビックリしそうな出来事を探し、手さぐり手さぐり差し出してみた。


 「解りました。街がヤバい。すなわち、街が……消え……た?」

 「それはないです」


 なんで否定は早いんだ……じゃあ、これはどうだ。


 「街が……爆……発?」

 「ふぅん……」


 そこは『ふぅん』じゃないよね?やれやれみたいな顔も止めろ。気力が尽きてしまったから、口から適当をぶっこんだ。


 「街が……飛んだ?」

 「おい、勇者!いつも飛んどるじゃろうが!真面目にやるんよ!うふふふぅ!」

 「惜しいですね。いい線いっているかと」

 「ひえええぇ……」


 すごい嬉しそうに突っ込んできた精霊様だったが、カルマさんの一言に戦慄した。ツッコミキラーでボケ殺しとは、なんて扱いにくい人なんだ。今だけは精霊様の頭をなでてやろう……。


 「では、ヒントを出しましょう。ここから僕の報告を推理していただけませんか?」


 ヒントじゃなくて答えを言ってくれ……。


 「でも、僕にヒントなんて出せるでしょうか……考えただけで、今にも目まいが」

 「カルマ隊員。落ち着いて状況を報告するっす。街で何があったっすか?」

 「ミオ隊員……ありがとうゥ!頑張ってみますゥ!」


 それ、さっき見た。ていうか、すでにミオさんは話、聞いてないんじゃなかろうか……。


 「それでは……ヒント、その1。街の名産品は手作り……」

 「目覚まし時計だ!」

 「仮面の人、お手付きですよォ!名産品は目覚まし時計……ですが」


 なんで引っかけたし。そして、なんでゼロさんも答えた……。


 「精霊様……ちょっと」

 「どうしたんよ」


 またゼロさんが精霊様を連れて行き、少し向こうで密談を始めた。あの二人、意外と仲がいいな……。


 「さて、街の名産は目覚まし時計ですが……街は今、どうなっているでしょうか?」


 知らんがな。


 「それでは、ヒント。その2」


 続いた……。


 「その2。街は消え……た?」


 消えてないって、さっき否定してたがな。


 「んん?珍しく知ってる話題が出たから勇気を出して答えてみたら、お手つきしてしまったんか?」


 「……ええ」


 遠めに聞こえてきた精霊様とゼロさんの会話……。


 「カルマ隊員。落ち着いて状況を報告するっす」

 「街で何があったっすか?」

 「ミオ隊員、テルヤさん。ありがとうゥ……」


 ミオさんのセリフを途中からかっさらってみたが、ルート分岐はないようだ。そこで俺は皆の代表として、カルマ隊員と戦う決意を露わとした。


 「カルマさん。あなたが報告したい気持ちは解ります。ですが、あなたが報告しないのであれば、俺は、あなたを倒してでも街へGO!」


 「う……すみません……で……ハァ……ハァ……ッ!」


 「勇者様!許してあげてほしいっす!カルマ隊員には、報告しないといけない理由があるんっすよ!」


 「えぇ……?」


 見慣れるくらい見たカルマさんの苦悶の表情はさておき、ミオさん曰く何か事情があるらしい。別に聞きたくはないが、殺人事件の犯人よろしく、カルマさんが自供を始めた。


 「そうです……僕には病弱な妹が……」


 「病弱な妹さんがいて、入院費を稼がないといけないんっすよ!それなのにカルマ隊員はタヌキ以下の戦闘力だったから連絡隊にしか入れなかったのに、それすらままならないと他に仕事がないんっすよ!」


 「僕には妹がいて……その入院費用を……」


 ミオさんの容赦ないネタバレが、カルマ隊員の必要性を奪う!いや、妹さんのことはともかくとして、それより兄の体と精神のか弱さが俺は心配でならない。


 「それは可哀そうに……可哀そうだが、うん!あんたをやる!どいてくれえええ!」

 「びゃああああああぁぁぁ!」


 これから殴りにかかろう、今にも殴りかかろうという矢先、近くに落ちていたガラス板が点滅を始めた。ゼロさんがガラス版を持ち上げると、その中に博士の顔を映り込む。


 『テルヤ君!私だ!』

 「あ……博士」

 「びゃああああぁぁぁ!許してててええええぇ!」


 こんなことをしている内にも、博士と仙人は街が見える場所へと到着したらしい。映像の方に集中したいのだが、カルマ隊員の悲鳴が個性的で怖い。


 『先に街を確認した!あれを見てくれ』


 博士の映っていた画面がパン。したら、空をバックにして何か、紫色の巨大なものがアップで出てきた。


 『あれが……魔物と化したレジスタだ!』

 「え……えええええ!?」


 カルマ隊員ほどハァハァはしないが、その街の姿を簡単に説明するのは俺にも無理だ。ただ強いて、そのの姿を一言で表すならば、あえて言おう。


 「街がヤバい……」

 

第22話へ続く

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