第71話の1『情けない…』
{前回までのあらすじ}
俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。勇者の肩書を目当てに姫様から告白を受けるものの上手く断り切れず、無理やり仲間のゼロさんに助け出してもらった……俺は、そんな残念な人である。
***
走る速さを変えぬまま、流れるように物陰へ逃げ込むと、ゼロさんは俺にローブを着せて姿を隠す。ゼロさんの方も派手なドレスを脱ぎ捨てると、暗い色の服へと早変わりした。こうして見ていると、なんだか手練れの忍者みたいだな……。
「もう車のチケット取ってあるから、出発にあわせて飛び乗るんよ」
「……おお、ルルルもいたんだ」
ゼロさんの華麗な身のこなしを見ていたところ、不意に背後から声が聞こえてきた。そうか。ルルルが一緒にいたから、魔法で体が軽くなってたんだな。ということは、会場の照明を消したのは仙人やヤチャかもしれない。そう勝手に推測などしている内、再びゼロさんは俺の体を持ち上げて駆け出した。
「あ……ルルル。ツーさん、持ってきた?」
「いるけども、今は静かにさしてる」
最近、ツーさんは言う事をちゃんと聞いてくれるようになってきたようである。同時にゼロさんの背中にいるルルルはオーブも見せてくれた為、忘れ物は特にないみたいで安心であった。ただ……結果的に城の人たちとは決別する形で街を去ることになりそうで、そういった意味では残念な結果であると言わざるを得ない。
そして……以前、オーブを城から盗んできてくれるとゼロさんから言われた際には断ったくせして、結局は俺自身をステージから盗み出してもらうことになった。レジスタにいる博士がセントリアルと親しいようだから弁明の機会はあるかもしれないが、こんな犯罪まがいの行為をさせることになってしまったのも俺としては悲しい。
「ゼロさん……もしかして、ステージの近くで見てましたか?」
「見ていた」
「俺……情けないな」
「……私が自分で考えてやっただけだから」
「……」
「あれでは、勇者が可哀そうだ。仕方がない」
愚痴っても謝っても、優しくされても……やっぱり少し辛い。俺はローブのフードを被ったまま、あとは黙って荷物として運ばれるに徹した。出発前の引き車が集まっている車庫に入り込み、俺は事前に用意してもらっていたチケットをゼロさんから受け取る。
「私たちは様子を見て行く。先に行ってほしい」
「解りました……お手数をおかけします」
全員で一緒に行くと怪しまれそうなので、俺は一人で先に乗車しに行く。今回も引き車の入り口は3つあり、俺は係員の人にチケットを見せると男用部屋があるマークのついた入り口を選んだ。
チケットに書かれている番号を見ながら、自分の部屋を探して廊下を歩いている。1……2……3……4。ああ、この部屋だな。仙人たちは先に来ているのだろうか。ドアを開いて部屋の左を見る。そこには座ったまま眠っているヤチャと、すっと軽く手をあげて俺に合図を送る仙人がいた。左側にはセガールさんもおり、この機会に俺たちと一緒に街を出るようである……んん?
「……あ」
「……あ」
セガールさんの横に……なんだろう。なぜ、武闘会で戦ったグロウがいるのか……。
「……」
「……」
俺が目を逸らすと、あっちも気まずそうに目を逸らした……なんで、そっちも逸らす……。
第71話の2へ続く






