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第70話の4『出演』

 控室の外で、バチバチと花火のような音がしている。ドアを開けて様子をうかがってみると、多数のサーチライトのようなものが夜空へと光線を放っており、勇者の神輿が情けなく駆動しながらお客さんたちの群を割って歩いていた。本格的に祭りが始まったようで、アマラさんは警備の任務へ戻る様子である。

 「では、私は失礼する」

 「アマラ様、お料理の香りが服に……」

 「ブレイド君。自分の生き様を消さないのが男だよ」

 肉料理をみんなでいただいた次第、ちょっと酸性っぽい香りが服についてしまっているのだが、それを加味してもアマラさんは雰囲気が爽やかである。アマラさんに続いて、カリーナさんも持ち場へ帰るようだ。

 「勇者様。それでは」

 「カリーナさんも、ありがとうございました」

 そう言う俺に向けて、カリーナさんは笑顔で手を振って去っていった。しかし、カリーナさんは危険分子の警戒に当たるのか、出店の調理・接客担当へ戻るのか謎である。武闘派衆の一人らしいので強んだとは思うのだが、その素性に関しての疑問をブレイドさんに告げてみる。

 「カリーナさんって、戦うと怖いんですか?」

 「畏怖の念は抱きませんが、敵対するものへの抵抗力は、かなりのものかと」

 「へぇ……」

 「なお、カリーナ様が出張しますと、城の食事情が乱れます故、あまり好ましくはございません」

 多々として仕事のできる人は必然的に多忙である。そんな雑談をしている中、一際の歓声がステージの方から聞こえてきた。何が始まったのかとブレイドさんが様子を見に行ってくれる。あわただしく戻ってきたブレイドさんは俺に報告しつつも、ビンに入った薬などを急いで取り出している。

 「姫様のご講演が始まっております。トキメイ殿、出演のご準備を願います」

 「え?もう始まってるんですか?」

 俺は車いすに手をつきながらも立ち上がり、適度に服のシワやエリなどをなおしてみた。ブレイドさんはビンに入った香水みたいなものを俺の服に吹きかけると、体にゴミがついていないか一回り俺の身だしなみを確認している。そして、よろけて立っている俺の背を支えながら、ステージのソデまで連れて行ってくれた。

 ステージに見えるサーヤ姫は鎧を着た姿ではなく、真っ白な花を思わせる美しいドレスを着用している。スピーチの合間の呼吸をぬって、サーヤ姫が俺の方へ目くばせする。学生服を着た俺の姿に一瞬だけ目を細めるが、すぐに不敵な笑みを来場者へと送った。

 「ええ。つきましては……本日、皆様のご期待をお受けしております勇者様。魔王打破、唯一の希望として、壇上へご招待いたします。大きな拍手でお迎えくださいませ」

 姫様の合図でワッと拍手喝采が起こり、俺は自分の出番であることを察した。ブレイドさんの手を離れ、幕の裏にて一つ呼吸を置く。なるべく、観客の方は見ない。心を強く持ち、頭が真っ白になりそうな大舞台へと足を踏み出した。


                                 第70話の5へ続く



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