第70話の3『メイド服とは』
着替えるのに時間がかかりそうだったので、これから料理を食べると解っていても先に制服へと着替えてしまった。体に痛みこそないが、関節を動かすと思うように曲がらず、ぎこちない姿勢になってしまう。でも、ブレイドさんに着替えを手伝ってもらうのは恥ずかしかったから、外で待っていてもらいつつ一人で黙々と着替えを遂行した。
「ブレイドさん。もう着替え終わりましたよ」
「あらあら?勇者様、そちらが勇者の衣装なのですね?」
「……あれ?カリーナさんですか?」
ドアの外にいるブレイドさんを呼んだつもりだったのだが、なぜか防衛隊のカリーナさんが一番に姿を見せた。彼女の服装は変わらずメイド服なのだけど、なぜか前に見た時より少し煌びやかなものになっている気がする。カリーナさんに遅ればせ、アマラさんも控室に入ってくる。
「偶然、屋台で働いているカリーナ君を見つけてね。君に挨拶がしたいとの事で連れてきたよ」
「はい。かわいいサーヤ様のお相手の方ですもの。おねえちゃんとしてご挨拶をしなくてはなりませんよ」
と本人は言っているが、カリーナさんって苗字からするに本当はシオン・カラードさんのお姉さんだと思われる。そこについても、さらっと簡単に聞いてみた。
「……カリーナさんって、誰のお姉さんなんでしたっけ?」
「もちろん、カラード君と……それと、みんなのおねえちゃん!」
女性的な見た目やメイド服も相まって、包容力がスゴイ……が、そんなことを言っている姉に対して、実の弟であるカラードさんの心境が気になるところである。ただ、シオン・カラードさんとは街に来てから会話らしい会話をしてないから、どういう人なのか未だに不明だったりする。
いや……しかしだ。それよりなにより、俺はとしては尋ねておきたい事がある。
「あの……カリーナさんって、お手伝いさんの格好をしていますよね?」
「うん!」
「……本日の服装は、どことなく豪華なお召し物と拝見いたしますが」
メイド服といえば、主人の後ろにキリッとして立つ、慎ましきお手伝いさんの制服というイメージである。なので、今日のカリーナさんのように宝石を散りばめたメイド服というのは、いささかメイド服として道を外れているのではないかと思ってしまうのだ。俺の疑問を受けると、カリーナさんに代わってアマラさんが説明をくれた。
「勇者歓迎祭なのだが、舞台の前列へ入るには、それなりの身分を示す服装でなければならない。よって、私も隊の制服を着崩さずに着用している」
そうだったのか。カリーナさんが邪道なメイドでないことが解り、なぜか俺は一人で安心している。じゃあ、俺の仲間の人たちが祭りの前列に来てくれることはないんだろうな……と、それも同時に理解した。俺に話が伝わったと見て、今度はアマラさんが料理についても話を始めた。
「そうそう。私が料理を買いに出たと告げたところ、カリーナ君も自分の料理を持って行きたいと言い出してね」
「カリーナ様のお料理もお持ちいたしました故、こちらも是非に」
アマラさんの後ろにいたブレイドさんが取り出したのは串に刺さった料理だった訳で、それについては非常に見覚えがあり……俺はカリーナさんに再び疑問を差し出した。
「これ……もしかして」
「勇者の串焼きですよ」
もしかして……俺、嫌われてるんじゃないだろうか。そんなことが頭をよぎったが、勇者の串焼きが美味しかったから良しとなった……。
第70話の4へ続く






