第70話の2『衣装とユニフォーム』
楽しそうに祭りに興じる街の人たちを避けて裏へと回り、俺たちは臨時に作られた控室のような場所へと入り込んだ。しかし、臨時とはいっても壁は硬い材料で作られており、部屋をそっくりそのまま家から出してきたような場所である。部屋の奥の方には色とりどりの衣服がハンガーにかけられていて、それが勇者の着る衣装と見て間違いないと思われる。
「ブレイド君はテルヤ君の手伝いを頼む。私が、皆の分の料理を買ってこよう。ええと……勇者の串焼きでよかったかな?」
「それ以外なら、なんでも大丈夫です……」
アマラさんが夕食を買ってきてくれると言うが、この人は察しがいいから俺が姫様の告白を断る予定なのも知っていそうだ。それでいて全く態度を変えずに接待してくれるので、こちらとしてはイヤな態度をとられるよりも、かえって気持ちが委縮してしまう。
「アマラさん。先に伝えておきますが……俺、街の人たちの期待には応えられないと思います」
「そうかな?私は、どちらでも構わないが……ああ、勇者登壇の際、私が付近の警戒にあたる。君に危害を加える者は排除しよう。安心したまえ」
そう言い残し、アマラさんは控室を出ていった。姫様については何を考えているのか解らない怖さがあるが、アマラさんは……どう接したらいいか判断がつかない人である。良い人のような気もするのだけど……いまいち信用できないのは、勇者決定戦である武闘会に出場させられたからであろうことは間違いない。
とりあえず、俺が壇上で何を言っても外部から危害を加えられる恐れはないとの事だ。あとは姫様に何かされなければ無事に壇を降りられるだろう。
「トキメイ殿。お召しものをお選びいたします」
ブレイドさんが衣服の一着を手に持ち、どれを着るかと俺に問いかけている。そうだなぁ……あまり勇ましい服で出ていっても顰蹙をかいそうだし、とはいえ隊の制服のまま出ていったら街と一緒に戦う姿勢に見える。どうしようか……。
「ワタクシ、衣類について調和をあわせることには強い自信がございます。さぁ、なんなりと」
「じゃあ、そこそこ勇者っぽい感じだけど強くなさそうで、あまり派手じゃないけどカッコがつくくらいの着やすいのをお願いします」
「あ……あまり難題は困ります故」
オシャレ番長が一瞬で戸惑い始めた為、俺は自分で衣装を探すことにした。いや……俺は、これからもヤチャやゼロさんたちと一緒に旅をするんだ。となれば、服装は決まっている。
「あの、鞄に入っている服……出してもらっていいですか?」
「承知」
ブレイドさんに出してもらったのは俺が普段から着ていた学ランで、少し色が違う部分はルルルが修理に出してくれた際に補修された場所である。ぼろぼろの服だけど、やっぱり俺は、これがしっくりくる。
「トキメイ殿。こちらでよろしいのですか?」
「はい」
「……」
学校の制服が珍しいのか、ブレイドさんは広げた学ランをまじまじと見つめている。そして、数秒だけ押し黙った末、言い出しにくそうに告げた。
「失礼ながら、トキメイ殿……」
「……?」
「暗い色で全身をかためるのは、オシャレ初心者にありがちな選択でございます故……」
厳しい……。
第70話の3へ続く






