第70話の1『勇者印あれこれ』
{前回までのあらすじ}
俺は恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。現在、美人の女の子から告白される可能性が濃厚なのだが、それを断る気持ちなので戦々恐々である。基本、主人公って告白する方だから、されるほうの免疫はなかったりする……。
***
勇者歓迎祭は既に催されているようで、エレベーターが下へ下へと降りるにつれて人の声やら打ち上げ花火の音やらが聞こえてくる。俺の他にエレベーターに乗っているのはアマラさんとブレイドさんなのだが、運転してくれているのはアマラさんだから乗ってて割と安心感がある。
一応は祭りの主役という事で、俺は隊の制服を着て変装した状態だ。現地へ行ったら着替えるのだろうけど、どんな衣装が用意されているのか、そもそも俺の出番は何時なのか。不明瞭な点についてブレイドさんに聞いてみた。
「知ってればでいいんですけど、俺の出番って祭りの、どのへんなんでしょうかね……」
「はい。姫様のご挨拶がなされ、その後に豪華な衣装をまとった勇者様の登壇でございます。お早めの登場になると存じます」
なるほど。実のところ、祭りが盛況であればあるほど、俺の心配が胃の痛みとなって襲ってくる次第、できるだけ早めに告白をお断りしたいとは考えていた。そもそも、歓迎祭の準備が始まる前に断れれば良かったのだが、ここまで用意して断りにくい空気を出しているのも姫の作戦なのだろうと思う。
エレベーターが一階へと到着し、俺はブレイドさんに車いすを押してもらいながら街を進む。本当は自分で歩くと伝えたのだけど、アマラさんからもストップをかけられたので、まだまだ俺のケガは回復していないのだと思われる。
「勇者の焼きまんじゅう!勇者の焼きまんじゅうだよ!」
「勇者の焼きまんじゅう?」
「ん?食べたいのかな?」
街の製菓店から妙な単語が聞こえてきた為、思わず流れゆく景色の中で振り返ってしまった。俺の顔の形に焼きが入れられているのではないかと不安であったが、アマラさんが買ってきてくれたものは俺が持っているペンダントの形に焼かれており、中身もアンコっぽいものであって意外と普通で安心した……。
「こちら、勇者せっけんでーす!」
「勇者せっけん……」
「ん?食べたいのかな?」
「食べ物じゃないですよね?いえ、いいです……」
チラッと見えた石鹸が人の顔の形をしていた気がして、それはさすがに買ってきてもらうのをお断りした……しかし、街の商店などを見回すと、どこもかしこも『勇者』の名を有する商品が一つは置かれていて、歓迎祭の為に各々が少ない情報から考案したのだろうなと察する。見た感じ、そこそこ売れて減っているのは、俺としては嬉しいのか悩ましいのか不明である。
街の門を出た外には広場のような場所があり、そこにはアイドルライブができそうなくらいの大きなステージが作られている。屋台もいっぱい出ているのだが、その中でも『勇者の串焼き』という看板のインパクトが凄い……多分、肉や野菜を串に刺して焼いた料理の店と思われるけど、俺が串にさして焼かれてるみたいで怖い。
「トキメイ殿!あちらが、勇者神輿でございます!」
「……」
勇者神輿……それは剣を持って黒い魔物と戦っている雄々しい誰かを模して造られた、巨大な紙張り提灯の作品であった。もはや、俺の要素が皆無なのだが、どの辺りにリスペクトがあるのか。ブレイドさんに話をうかがってみた。
「あれ……俺ですか?」
「ええ。口の辺りから黒い液体が漏れております故」
「くねくねと駆動する部分もテルヤ君らしいよね」
意外と俺の戦いの様も反映されてはいたんだけど……俺の要素がない方がカッコいい気がして逆に気まずい。
第70話の2へ続く






