第69話の6『お付き合いの条件』
「じゃあ、よろしく。夜に、また会おう」
「うむ……約束なんよ」
念のために持ってきていたオーブをルルルと仙人に預けると、俺はブレイドさんと一緒にエレベーターを使って病室へと戻った。たしかにエレベーターは降りるよりも上がる方が早かったが……それでも、およそ一時間はかかった。今日で病室ともおさらばだ。できるだけ部屋はキレイにして返そうと思う。
「トキメイ殿。姫様にはお会いせずともよろしいのですか?」
「諦めました……今夜、じきじきに言います」
何かあれば呼ぶからとブレイドさんには伝え、少し一人にしてくれるようお願いする。とはいっても、ベッドの上くらいしか整理する場所はなく、勇者歓迎祭の出番まで2時間くらいは何もすることがなく待機である。
「……」
俺が姫様の誘いを断ったところで、きっぱりと姫様は諦めてくれるだろうか。むしろ、俺が場の空気を乱すような発言などしたら、その瞬間にも銃殺されたりしないだろうか。心配は尽きない。これがゲームの世界だったら、ここで忘れずにセーブしておきたい……。
試しに窓から下をながめてみる。徐々に日は沈んできている為、街の周りにある広場のような場所には光が点々と浮かんでいる。何か大きなものが運ばれているが……もしかして、あれが俺の姿をした神輿なのかな……。
「トキメイ殿?よろしいですか?」
「あ……どうぞー」
扉をノックする音がして、同時にブレイドさんの声が聞こえた。俺が返事をすると、ブレイドさんは治療道具一式を持って入室した。
「包帯などを交換させていただきたく」
「……まだ大丈夫だと思いますよ?」
「勇者歓迎祭前ですので、よろしければと」
そうか。歓迎祭に出るのに、汚れた包帯を巻いていては見栄えがよくないか。やっぱり包帯を交換してもらうことし、俺は椅子に座って手足を差し出した。
「……」
手つきはぎこちないが、黙々とブレイドさんは俺の包帯を取ったり、消毒したり拭いたりしてくれている。お姉さんの誘いを断るつもりなのに、なんだか申し訳ないな……と思いながら見つめていると、ブレイドさんは姫様のことを話し始めた。
「……姫様は、とてもお強い。しかし、自分では魔王を討伐できない事、酷く悔やんでおられたはずです。ずっと、本物の勇者を捜索しておりました」
「そうですかね……」
「……トキメイ殿。姫様の告白をお断りしても、この街の皆と共に戦っていただきますよね?」
「……それは、姫様が許すか否かですね」
となると、セガールさんがニセモノの勇者だという事実は、彼がお金を受け取り街を立ち去った時点で気づいていたんだな。多分、お金に関しても情報料以上の意味はないのだろう。そして、本物の勇者ならば自らを差し出してでも独占したいという気持ちだ。世界で唯一、魔王を倒す能力を有している一団になる事とは、それだけ姫様の中で重要な意味を持っている事なんだと思われる。
「……」
「……」
う……気まずい。なんだかんだ言いつつ、ブレイドさんは姫様のことを心配しているのか、憂うような表情でうつむいている。だけど、どうして姫様が俺との関係を気にするのかといえば、きっと自分を裏切れないようにするためなのである。この考え方については、俺は賛同しかねる次第である。そんな考え事と、俺たちの保っている沈黙を割って、窓ガラスがコンコンとなった。
「……?」
「……テルヤ君。元気かな?」
「……うわぁ!ビ……ビックリした!」
窓の外からはアマラさんが覗いていて、その口調は俺たちのテンションとは反対に楽しそうである。そのまま、窓を開くとアマラさんは病室へと自分から入ってきた。
「おや、部屋をキレイにしたものだね」
「あの……どうやって、ここまで上がってきたんですか?」
「まあ、それはいい。夕食がまだであれば、これより勇者歓迎祭へ赴こうか?」
『まあ、それはいい』……は質問に返すセリフではないと思うが、でも助かった。どうせ、勇者歓迎祭には行かなければならないのだ。アマラさんと一緒に行った方が、幾分かはブレイドさんと二人で行くより安心である。なんでかというと……。
「解りました。俺、ちょっと準備をしますね」
「では、アマラ様。ワタクシがエレベーターの操縦を」
「うん。それは私がやるね」
「いえ、ここは!」
「私がやる」
アマラさんもブレイドさんの操縦がイヤなのか……まあ、それは解る。
第70話へ続く






