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第2話『バトル(もう死ぬかもしれない…)』

 (前回までのあらすじ)

 俺、時命照也は恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、なんの手違いかバトルマンガっぽい世界に飛ばされた。そして、師匠らしき見知らぬ人と生き別れた後、運命のペンダントとかいう謎アイテムに勇者として選ばれた。そして、今は魔王の差し向けた追手と、1対1で対面している!


 今にも敵の棍棒が振り下ろされそうな絶望的状況下において、《 『1.相手の胸をもむ』『2.相手の尻をもむ』 どっち? 》という選択肢が俺の目の前に提示されている。世界は俺も含めて時間を停止させているが、あんまりな選択肢の出現に俺の思考もフリーズしていた。


 とりあえず……選択肢について検証しよう。敵の服装といえば紐付きの腰布を下半身に巻いただけの簡素なもので、上半身裸は何もつけていない裸の状態。体には揉む胸も尻もあるのだが、さながら姿は緑色をした二足歩行のブタ。できるなら、どちらも揉みたくはない。


 というか、これ……女の子相手に出る選択肢のはずじゃ……いや、出会って早々に女の子の胸や尻をもむのも、倫理的に問題はあるだろう。それこそ、お色気系ラブコメ主人公じゃなかったら許されない所業である。


 そもそも、この選択肢の中には、本当に正解があるんだろうか?俺は恋愛アドベンチャーゲームの主人公適正を持っているはずで、運命のペンダントというアイテムが俺の力を引き出した。その道理でいけば、どちらかの選択をすれば、鬱ゲーでもない限りは生存できるルートがあると考えられる。でも、あまりにも選択肢が今の状況とマッチしていなさ過ぎるのだ。


 最悪の場合、どちらを選んでも死ぬ可能性が……などと疑っていたら、それを察したかのように選択肢が薄れて消え始めた!待って待って!ごめん!信じるから!


 ……心の中で必死に謝ったら、なんとか許してくれた。そもそも、他に良い案もない訳だし、こうして考える時間をくれるだけでも儲けもの。それに、どうせ死ぬなら選択肢を選んで死ぬ方が、恋愛アドベンチャーゲームの主人公としてプライドは保てる……かもしれない。


 考えを改めよう。悲しいことだが、俺にはブタの胸を揉むか、尻を揉むかしか道はないのだと。したら、なるべく正解の可能性が高い行動を導き出すべきだ。もう一度、相手の姿を観察してみよう。


 まず、胸を揉む場合についてである。敵は俺よりも背が高く、2mよりも更にある。俺の背丈は170センチちょいだから、思いっきし手を伸ばせば胸まで届くことは届く。相手は上半身裸だから胸を露出しているし、その膨らみも結構……いや、それは俺にとってプラスではない。


 棍棒は今まさに振り下ろされる寸前で、そこから軌道を修正するのは難しいだろう。すると、すぐさま横へ走って回避すれば、そこからのインファイトは可能だ。ただし、懸念もある……それは胸を揉めたからといって、どうなれば敵を追い払えるのか、まったく想像がつかないということだ。まあ……奴の胸が凄く敏感で、恥ずかしがって逃げていくことを願うばかりだ。


 逆に尻はどうだろう。こちらも棍棒を避けつつ、スライディングで回りこめば辿りつけるはず。腰布で隠れていて見づらいが、大量に贅肉がついているであろうことは腹周りから見て明らか。でも、腰布や巻締のヒモといった装備がある分だけ、胸よりは防御をはかっていると見られる。


 じっくり観察してみたが、なにもヒントは得られなかった……こうなったら、もう露わとなっている胸で行くしかない。いや、待て。恋愛アドベンチャーゲームの選択肢って、無難そうな方を選ぶと予想外に好感度が下がったりするよな。だったら、尻……いや、裏の裏をかいて、普通の選択肢が正解の可能性もある。なんなんだ。俺は……どうしたらいいんだ。


 『5……4……』


 うわああああぁ!カウントダウン出てきた!なんにも決まってないけど、早く決めないと。もう、いいや!


 『2.尻を揉む!』


 テストの選択問題とかでも同じだけど、本当に困った時って、1番目の選択肢は割と選ばないもんなんだな。それか、気持ち楽な方を選んで死んだら、それこそ悔いが残ると考えたからか。どちらかといえば揉みたくない方なのに、俺は尻を揉む決意を固めてしまった!カウントダウンが終わる。時が動き出す。くる!


 「ぶおおおお!」

 「うわっと!」


 間一髪、敵の攻撃は俺の右肩をかすり、そのまま地面を殴って穴をあけた!俺は吹き飛ばされるように相手の後ろへ回り込み、わしわしする手つきのまま相手の腰布の中へと体を突っ込む!


 「ぶひっ?」

 「くらえー!わしわしだー!」


 固くもない!柔らかくもない!ゴムを殴ってるみたいだ!しかも、臭いが凄い!揉む方のことも考えて、たまには体も洗っておけ!と、なかば混乱しながらも、目をつむったまま揉みしだき続けた。これは可愛い女の子のヒップだ……これは可愛い女の子のヒップ……そう言い聞かせながら揉んでいると、急に敵の尻が脈打ち出した!


 「ぶひいい!」

 「このこの……このっ!」

 「な……なぜ……ふごっ」

 「……へ?」

 「なぜ、おらの心臓が、ケツにあると解ったぶひいいい!」

 「えええええ!?」


 ……あとのことは、よくおぼえていない。俺が敵の尻を一つ揉むたび、敵は嗚咽か高揚か解らない声を上げ、最終的には口から泡をはきながら気絶した。そんな敵の傍で、俺は膝を抱えたまま泣いている。その涙が勝利の涙か、ギャルゲー主人公としての壊れたプライドかは知らん。


 今にして思えば、尻が弱点だったから敵は腰に装備をつけていたのかもしれない。何はともあれ、俺は勝ったのだ。やつが復活する前に、ここを去ろう。俺は急いでヤチャの元へ駆け寄り、すぐに生きているか確認を始める。不思議と上半身の胴着だけは綺麗に破けているけど傷は浅く、しっかりとした呼吸も確認できる。一応、切り傷はハンカチで縛っておこう。


 俺は応急処置だけを簡単に施し、ヤチャを背負って村がある方向とは別の方角へ駆けだした。ヤチャは米袋くらいの重さであり、そう運ぶのは苦ではない。ただ、倒れている敵の姿を一瞥した際、『尻に心臓があるやつってイスに座るときとか、どうしてたんだろう……』という、どうでもよい疑問が無駄に心に残った……。


 途中途中で遭遇をはたした野生のウサギさんにビビりつつも、とにかく追っ手から逃れるべく森をさまよう。とはいえ、ナビゲート役をしてくれそうなヤチャは戦闘不能だし、次の行き先が全く解らない。


 ああ、遭難中に無人の小屋を見つけて、女の子と二人だけのドキドキサバイバルな能力……とか発動しないかな、と夢見心地に考えてみたが、そんなニッチな能力が都合よく出てくるはずないし、そもそも現時点では女の子すら出てきていない。深刻な女の子ロスである。


 ……現実を見よう。まずは人のいる場所を目指すべきだ。次なる村がありそうな場所といえば、一つ森を抜けた先か、山を越えた先だろうか。とすれば、体力的には厳しいが山を登って、展望のきく場所を探すのが得策か。未だ一向に道らしきものは見当たらないが、俺は草を足で押しのけつつ、ゆっくりと坂を上りだした。


 「ん?」


 そうこうしつつも、1時間半は歩いたか。そこで俺は不自然に草の生えていない場所を発見した。よくよく見ると、たくさんの足跡がついている。もしかすると、俺のように村を追われた人達が、どこかに逃げ隠れているのかも。まぁ、もし敵の足跡だった場合は見つかる前に逃げればいい。それに……このままではヤチャも限界、俺もテントすらない状態で夜を越すのは無理だ。やむなく、俺は足跡を辿ってみることにした。


 うねり道を踏んで歩くこと数十分、次第に木々を透かして灯りが見えてきた。森を抜けた先には崖を背にして村が作られており、その入り口に門番らしき人物が立っている。助かった。俺はズリ落ちてきていたヤチャを背負い直し、助けを求めて門番へと話しかけた。


 「すみませーん。少し休ませてもらえませんか?」

 「お前は?」

 「テルヤっていいます。旅の者なんですが、仲間がケガをしてしまって……」

 「ダメだ!どこの馬の骨とも解らんやつを入れるつもりはない」

 「そんな!そこをなんとか!そこをなんとか!」

 「早々に立ち去れ!」


 バトル漫画の世界の人たちって冷たい……と、都会に出てきた田舎者のような気持ちになりながら背を向ける。すると、今度は慌てた声色で、門番の方から俺を呼び止めてきた。


 「……ん?お……おい!待て!」

 「な……なんでしょう」

 「その、ズボンのポケットに入っているものを見せろ!」


 ズボンのポケット?なにか入れてたっけ……ああ、そうそう。運命のペンダントだ。首にかけていると重いから、ポケットに入れといたんだ。一旦、ヤチャを地面に置いて、それを門番に見せる。もしかしてと思い、そこはかとなく身分を明かしてもみた。


 「これを持ってれば勇者……ってことらしいんですが」

 「……他の者に話をしてくる。しばし、待て」


 おっ。さっきまでは文字通り門前払いだった反応が、勇者という一言でを一変した。やっぱり勇者という存在は特別なのだろうか。次からは黄門様の印籠よろしく、開口一番で勇者の名をつきつけるようにしよう。それから20分ほどして、門番が俺のところへ戻ってきた。


 「部屋を貸してやる。入れ」

 「あ……ありがとうございます!」


 地面に安置していたヤチャを背負い、俺たちは門番の後について村へ入った。村は塀と高い崖に囲まれており、ここからでも全体が見知れるくらいの広さだ。畑では男の人たちかがクワを振っていて、建物も人の少なさにあわせて10かそこらしかない。その中でも唯一、二階建ての作りをしている家へ通されると、その入り口には厳つい顔をした老人が立っていた。


 「ようこそ。勇者様。ここはオトナリの村。今日はワタシの家の二階をお使いください」

 「すみません……ありがとうございます」

 「お食事をご用意いたしますので、それまで部屋でお待ちください」


 食事か……試しにポケットの中を探ってみるも、野口さんが描かれている紙幣しか入っていなかった。これは使えないよな……。


 「俺、お金が……」

 「いえいえ、勇者様から金銭をいただくなど……今は体を休め、これからの戦いに備えてください」

 「そう……ですか。厚く感謝を申し上げます……」


 それだけ告げると、老人は別の建物へと歩き出し、俺は老人の秘書らしき人の案内で二階の寝室へと向かった。門番の人は怖かったが、どうやら他の人たちは親切そうだ。ベッドへとヤチャの体を降ろし、やっと荷の降りた肩で背伸びする。一安心したら、なんだか腹が痛くなってきた。ちょっとトイレを借りよう。


 さっき部屋へと案内してくれた秘書さんらしき男の人が部屋の前にいたから、トイレの場所を尋ねてみる。どうやら、トイレは一階にしかないらしい。この建物には部屋が幾つもあるが、トイレには見慣れた男女のマークがついていた為、すぐに場所を特定することができた。


 一息ついてトイレから出ると、また秘書さんが近くにいた。無言で頭を下げて挨拶したら、あちらも静かに頭を下げて、一階の広間へと去っていった。俺も部屋へ戻って少し寝よう……と、二階にある部屋のドアを開けようとした瞬間、室内でヤチャの叫び声が響いた。


 「うああ!」

 「な……どうした!ヤチャ!」


 部屋へと駆け込む。驚き余ってか、ヤチャはベッドから落ちていた。


 「……なんだ。落ちただけか」

 「あぁ、テルヤ!今、部屋に誰かがいたんだよ!窓から飛び出していった!」

 「なんですって!?」


 確かに……窓は開いている。ただ、家の裏には崖が立ちふさがっており、そこを登って逃げるのは時間がかかりそうだ。というか、この絶壁を登るのは無理だろう。下を見ても、今は人影が見えない。そもそも、ここは二階だから、俺だったら飛び降りたら骨折するくらい高い。


 「……テルヤ!テーブルに何か書かれてるぞ!」

 「ええ?」


 テーブルにはナイフを突き付けた跡があり、切り傷で文字が書かれていた。


 『この村は気をつけろ』


 謎の侵入者、謎のメッセージ……俺は不吉な予感をおぼえつつも、その文字が日本語だったことに不思議と安心感も覚えていた。

第3話へ続く

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[気になる点] 文を詰めすぎて圧迫感を感じる。 [一言] 読み続けたいが2ページ目で文字数?文章のスペースに息苦しさを感じて挫折。 オッサンの目には辛い。
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