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第69話の5『元気?』

 「ここで待っていてもらっていいですか?そんなに時間はかからないので」

 「はい。お待ちしております」

 お昼をいただいた食堂から宿屋までの距離は歩いて10分くらいのもので、ブレイドさんに車いすを長々と押してもらわずには済んだ。すぐに戻ると事前に告げ、俺は車いすから降りて一人で宿の中へと入った。

 寝室のドアが並んでいる廊下を歩き、まずは俺たちが泊まっていた男部屋の方の扉をノックしてみる。もしや食事に出ている時間かもしれないと危惧したが、ノックの音に反応して室内から物音が聞こえたので安心した。その内、寝室のドアからは仙人の顔が覗いた。

 「……ほひょ?」

 「あ……ご無沙汰です」

 (……詐欺師か?)

 「俺です……テルヤです」

 ローブを深く被っていたせいで、老人狙いの詐欺師と勘違いされた……まあ、そうだよな。どうやら部屋の中には他に誰もいないようだが、ひとまず今回の要件は仙人に伝えておけばいいだろうと思う。すると、仙人は俺を部屋へ入れる訳でなく、そのまま女子部屋の方へと移動を始めた。

 「……そっちに誰かいるんですか?」 

 (……精霊はいたはず)

 とすると、ゼロさんは外出しているかもしれないな。このまま仙人にテレパシーを使い続けてもらうのも体力的に難ありなので、ルルルに会うのが少し気まずいのを隠しつつ俺は女子部屋へついていった。

 「……ひゃひょっひょ!」

 仙人が杖でドアをコンコンと叩くと、わずかに開いた戸の隙間からルルルの大きな目が現れた。その目は俺を見つけると疑うような視線を見せたのだが、なんとか追い返されることなくルルルは扉を大きく開いてくれる。

 「なんなんよ?」

 「お願いしたいことがあって来たんだ」

 なるべく言いよどまないようにハッキリと告げると、ルルルは俺と仙人は部屋の中へと通してくれた。ゼロさんの姿はないが……愛想をつかされてレジスタに帰った訳でないことを願いつつ、単刀直入に俺はルルルと仙人に事情を話す。

 「外で人に待ってもらってるから短めに話すけど、今夜の勇者歓迎祭で……俺は姫様から告白を受けると思う」

 「……それは、もしかして、のろけなのん?」

 「違う……もうちょっとだけ聞いて?」

 確かに……これだけ言うと嬉しがってるみたいである。続けざまに俺は今夜の計画を伝える。

 「それを俺は断るから、夜には街を出る準備をしておいてほしい」

 俺の言葉を聞くと、ルルルと仙人は目を丸くして驚いた様子であった。むしろ、ルルルに至っては心配までしている。

 「あたちがワガママ言ったから?」

 「いや……俺が、みんなと旅がしたいから」

 「……この面子で魔王とか倒せると思ってるのん?」

 「う……」

 気にしていることをビシッと言われてしまい、ややたじろいでしまう。でも、今までだってなんとかやってきたのだ。なんとかしてみせる。

 「うん……俺が、なんとかする……から、手伝ってちょうだい」

 「……」

 そう俺が見栄を張って見せると、ルルルはタックルかと思う勢いで俺に抱き着いてきた。その衝撃で倒れそうになったものの、ルルルに触っている内に少し気持ちが軽くなるのを感じた。

 「……ど……どうしたの?」

 「お兄ちゃん、ちょっと疲れてる……元気、分けた」

 ……そう言われてみると、ここ数日は体の疲れ以上に内面的な問題が多く発生していたように思う。ルルルとケンカした時といい、俺は恋愛アドベンチャーゲーム主人公の割には、あまり人付き合いや駆け引きは上手くないと自負している。

 魔法を使ってもらったのか、ただ本当に元気を分けてもらっただけなのかは解らないが、これで今夜の告白を断る勇気も一際だ。街を出るために引き車のチケットを用意してくれるよう仙人にお願いをしつつ、俺は2人に見送ってもらいながら宿の出入り口へ向かった。

 「そういや、ゼロさんはどこに行ったんだ?」

 「お兄ちゃんを探しにセガールと出かけたのじゃよ」

 ルルルいわく、ゼロさんは俺に会いに出かけたらしい。こっちも行き違いで会えなかったか……でも、街や城の中にはゼロさんの居場所が表示されていないし、外でやってる勇者歓迎祭を見に行ったのかもしれないな。

 「ヤチャは?」

 「サイン会……」

 あぁ……あれ、今日やってるのか……。


                                 第69話の6へ続く


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