第69話の4『お別れ』
個人食堂のような店へと入り、隅っこの方にあるテーブル席へと座る。時間がお昼時とあって人が多かった為、オーダーはバンさんたちにお任せして俺は目立たないように待機することにした。周りで食事している人たちの料理を見てみるが、やっぱりジャンルに統一感がなくて中華っぽかったり洋食っぽかったりバラバラである。
「待たせたな。どっちがいい?」
バンさんが二つの料理をトレーに乗せてきてくれて、どちらが食べたいかと尋ねている。一つはラーメンのような料理で、でも何か揚げ物がスープに浮いている。もう一つはハンバーグに似ているのだけど、色は全体的に紫である。ラーメンの方が無難そうだが、ハンバーグも見た目は美味しそうである。ものは試しの気持ちで、ハンバーグっぽい料理をいただいてみた。
「こっちでいいですか?」
「悪魔のディーズだな」
「悪魔の?」
バンさんの口から不穏な単語が飛び出たため、選択をミスったかと思い料理名を部分的に聞き返した。すると、バンさんはハンバーグっぽい料理を俺の前に置きつつ、それについて詳しく説明をくれた。
「悪魔のってのは、食材の魚の姿が悪魔みたいだって話だ。食って苦しむものじゃない」
「魚なんですか?」
「ああ、足が15本もある変な魚だ」
つまり、イカとかタコみたいな生き物を使ったハンバーグなんだろうな。う~ん……海で会ったタコっぽい人やイカっぽい人たち、元気にしているだろうか。そんなことを思いながらも、魚肉ハンバーグをいただいてみる。むっ……コリコリとした歯ごたえがあって美味しい。
「どうぞ」
「あ……どうも」
スプーンでは食べ辛そうにしている俺を案じて、隣で俺と同じ料理を食べているブレイドさんがフォークをくれた。今夜の姫様の件は不安でしょうがないが、こうして美味しいものを食べたり、お話をしたりすると少し気が楽である。あ……そうだ。
「ブレイドさん。このあと、仲間のいる宿に行ってもいいですか?」
「勇者歓迎祭はよろしいのですか?」
「いいです……」
どうせ、街の人たちをガッカリさせる祭りだ。それより、こうなった以上は前に話せなかったことも含めて、ルルルやゼロさんに伝えておかなければならない。そう決心してご飯を食べていたのだが、ケガのせいで手が上手く動かず、食べ終わるのは最も最後になってしまった。その後、店の前でバンさんとはお別れとなった。
「バンさん……色々と、ありがとうございました」
「ました……ってことは、行くんだな」
「……すみません」
「……まあ、いいさ。また何処かで会ったら、よろしく頼む」
俺のセリフから事情を読み取ってくれたようで、バンさんは引き止めるでもなく静かに手を振って立ち去った。俺もバンさんやミオさんみたいな人と仲良くできるなら、このまま街にいるのもいいような気もするが……姫様と考えが一致しない以上は厳しそうである。
「ブレイドさん。街の入り口の近くにある、宿屋に行きたいんですけど……」
「承知しました」
移動についてはブレイドさんの土地勘に任せていいらしく、特に迷いもなく俺の乗っている車いすを押してくれる。
「あの……トキメイ殿、ワタクシ考えでございますが」
「……?」
ブレイドさんも俺とバンさんの会話を聞いて、俺が街を離れるつもりだと感じたのだろうか。気をつかうような小声で、後ろから俺に話しかけてくる。
「バン大佐は別れ際、やや悲しそうでございました」
「そう……ですかねぇ」
……あまり追及されると、それはそれで俺も困る。そう考え、俺は発言に注意しつつブレイドさんの話を聞く。
「もしや、バン大佐……」
「……」
「麺類よりも悪魔のディーズを食したかったのでしょうか?言ってくだされば交換しましたのに」
「そ……そう、かもしれませんね」
うん。ひとまず、そういうことにしておこう……。
第69話の5へ続く