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第69話の3『居場所』

 「ありがとうございます。じゃあ、外を探してみます」

 「む……やぶさかではない」

 シュッパさん情報によって姫様が街の外にいると解った為、今回は姫様の部屋のトビラを開かずに済んだ。再びブレイドさんに車いすを押してもらいつつ、城の下層にある広場のような場所へと向かって出発する。

 「あの……ブレイドさん?」

 「はい」

 「もしかして……滑り台に連れて行こうとしてません?」

 「いえ、ワタクシも微々たるものながら、魔力の行使は可能でございます。エレベーターを可動させてみせましょう。ええ」

 やはり姫様の妹君ということもあって、ちゃんと魔法は使えるようである。俺は変装として頭の上からローブのようなものだけ被せてもらい、小さなエレベーターがある場所へと案内された。車いすのまま俺がエレベーターに乗ると、操作盤のようなものへブレイドさんが手をつけた。

 「激しく振動する可能性がございます。舌など噛まぬようご注意ください」

 ブレイドさんが注意事項を述べ、それに俺が頷く。すると、グオンと音がしてエレベーターが動き出し……うご……動いてるのか?これは。

 「……ブレイドさん?これ、動いてますか?」

 「はっ……話しかけないでいただけますか?」

 ブレイドさんは操作に必死だ……しかし、その割にエレベーターは動いていることすら感じ取れないほどの動きが鈍く、かろうじて窓から見える景色でエレベーターの下降が確認できる。前に乗った時はアマラさんの俊敏な運転を体験したとあって、比較してしまうと速さの違いは明白である。

 そろそろ、エレベーターが出発して20分くらい経った頃である……やっと城の中層まできただろうかか?この調子だと更に30分はかかりそうなものだが、こうなると解っていたら、一般エレベーターに乗せてもらった方が良かったかもしれない……などと言ってしまうとブレイドさんが可愛そうなので、俺は息も絶え絶えなブレイドさんを黙って眺めている。

 「くっ……くっ……」

 急にブレイドさんが、悔しいのか笑っているのかも解らない声を出した。俺は体調にでもきたしたのではないかと思い声をかけてみた。

 「……どうしました?」

 「くっ……くだりは、のぼりよりも、操縦の難度が高いのでして」

 「そうなんですね」

 『くっ……殺せ』とか、『くっくっくっ……はーっはっは!』みたいなことを言いだすのかと思ったが、そんなことはなかった。ちょっとトイレに行きたくなってきたのも顔には出さず、俺は頑張る女の子を引き続ぎ黙って見守った。

 「つっ……着きました」

 「お……お疲れ様でした」

 そんなこんなで更に一時間後、ついにエレベーターは街の一階部分へと到着した。ブレイドさんの疲れがヤバそうだったから、俺は自分で車いすの車輪を動かしてエレベーターを降りた。街の外へ出るための道をブレイドさんに聞きながら進んでいったところ、街の通路にて偶然にもバンさんと遭遇した。敬礼を交えつつ、ブレイドさんがバンさんに挨拶している。

 「バン大佐。お疲れ様です!」

 「俺は大佐じゃないぞ。で……その人、誰?」 

 「あ……俺です」

 「……ああ、あんたか」

 汚いローブによる変装でバンさんの目をあざむきつつ、俺はローブから目元を出して会釈する。バンさんの様子からするに、俺をつれて一緒に城の下層へ行ったことについては、おとがめもなかったように見える。俺が街にいることよりも、むしろバンさんはブレイドさんの様子が気になったようである。

 「……で、なんでブレイド君は疲れてんの?」

 「エレベーターを操縦いたしました……トキメイ殿が姫様にお会いしたいとの事でしたので」

 「え?姫様だったら、さっき上に戻ったけど」

 「……ええ?」

 「……ええ?」

 ……驚きのあまり、俺とブレイドさんは同じセリフを口にした。ブレイドさんの安全過ぎる操縦に付き合っている内、姫様は城の上層へと戻ったらしい。まさに行き違いである。また上へ戻るのか……そう思ってうなだれた俺とブレイドさんを見て、バンさんは微妙に困ったような笑顔を見せてつつ食事に誘ってくれた。

 「そろそろ昼だし、おごってやろうか?」

 「バン大佐!本当ですか?」

 「ブレイド君。俺が嘘をついたことあるか?ほら、来いよ」

 「あ……ありがとうございます。では、俺もお言葉に甘えて」

 英雄の証を見せれば飲食店でも割引してくれそうだが、そうすると勇者が街に来ているとバレる為、俺はバンさんの男気にのっけてもらうことにした。にしても、色々と迷惑をかけている都合上、それなりにバンさんには気をつかってしまう。

 「あの……俺を城から連れ出した時、姫様に何か言われなかったですか?」

 「ん?ああ、姫様は俺の居場所は解らないから、その心配はない」

 「……ん?」

 「だって俺、魔力ないし。あれだろ?魔法使いは知り合いの魔力を感じ取れば、どこに誰がいるのかまで解るって聞くし」

 「……ええ?そうなんですか?」

  という事は……ああ、また姫様にしてやられた!その時になって、なぜ姫様がブレイドさんを俺の世話係にしたのか、それが判明してしまった。もう、今日は夜まで姫様に会えない。そう俺は理解した。


                             第69話の4へ続く


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