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第69話の1『恋愛の最後とは』

 {前回までのあらすじ}


 俺は恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされてしまった。バトル漫画にありがちなトーナメント形式の大会に優勝したのはいいのだけど、骨折までした挙句に大会の開催者から結婚のお誘いまで受けそうで揉めている……。


          ***


 ブレイドさんの意地悪な面が垣間見えたところで、本格的に交渉へ入ろうと思う。俺は勇者歓迎祭での姫様の告白を避けたい。となれば、俺が取る作戦は……姫様に嫌われるか、歓迎祭を中止にするか、姫様を歓迎祭へ行かせないか、その中のどれかだろう。

 もちろん、俺が勇者歓迎祭で姫様の告白を断ればいい話なのだが、不特定多数の人が集まる場である為、アマラさんの口から出ていた暗殺だとかの物騒な単語が不安材料である。

 「……という訳で、ブレイドさん。俺、姫様に嫌われたいんですけど、どんなことをしたら嫌がられますかね」

 「え……姫様は……いえ、不機嫌になりますと実に恐ろしい方です。呪いをかけようと努力されるほどでございます」

 それは困る……単純に嫌われるのはよそう。じゃあ、アプローチをかえて……。

 「俺、本当は勇者じゃないんですよ……」

 「あ、そちらに関しましては魔力測定班による調査が終了しております故、勇者であると自信をお持ちいただいてよろしいかと。あわせて、勇者様の助力がいただけませんと、ワタクシ共も困ります……」

 真面目に返されてしまった……こうなったら、最後の手段。女の子の乙女心に訴えかける他ない。

 「セントリアルの人たちには申し訳ないんですけど、俺は好きな人がいるんです……でも、俺は勇者歓迎会の場で姫様に告白される可能性があります。みんなをガッカリさせたくないんです」

 「好きな方……先程もおっしゃっていましたが、もしや……あの、お仲間のキレイな方でございますか!?」

 「そうですそうです!あの人が大好きなんです!もう、心がはちきれんばかり!」

 こんなセリフ、ゼロさんの前では恥ずかしくて絶対に言えないが、だからこそ本人がいないところでは声を大にして言ってしまう。すると、ブレイドさんは誰にも聞かれていないか周りをキョロキョロと見回した末、小さな声で俺に告げた。

 「……きっと、姫様は勇者様を街に繋ぎとめるべく、結婚を申し込もうと判断したのです。しかし、世界を救う力を得るためとはいえ、真の愛を犠牲にしてはなりません」

 「俺も、そう思います」

 「ええ!ワタクシ、姉である姫様の為にも、そのような真似は許してはおけません!参りましょう!ワタクシが抗議いたします!」

 ブレイドさんは小さな声から始まって、段々と口調が強くエキサイトしてきた。もしかして……これ、いい流れなんじゃないのか?上手く行けば、ブレイドさんから姫様を説得してくれるかもしれない。こうしてはいられないとばかり、ブレイドさんは俺の乗っている車いすを押しながら歩き出した。

 「トキメイ殿」

 「……どうしました?」

 やや静かな間を作った後、ブレイドさんは気恥ずかしそうに俺の名前を呼んだ。振り向いて顔を見てみると、ものすごく何か言いたげな顔をしていたのだが……なおも言い出せないとばかりに口をあわあわさせている。

 「あわ……あわわ……」

 「どうしたんですか……」

 「……は……はい。踏み込んでお聞きききいたしまし」

 「ど……どうしたんですか」

 噛み噛みになりつつも、ブレイドさんは勇気を出した様子で俺に尋ねた。

 「こ……恋人の方とは、ど……どこまで進んでらっしゃって……」

 「ど……どこまで?」

 実は恋人ですらないのだが、そう言ってしまうとブレイドさんの協力に陰りがでる恐れがある。ちょっと見栄をはろう。そうだな……俺とゼロさんは……確か、人工呼吸をしてもらった疑惑まではある。それは嘘ではない。

 「誤解をおそれずにいうならば、キ……キスですね」

 「キ……キス!?」

 俺の言葉を聞くとブレイドさんは車いすを押す手を止め、その場にしゃがみ込んで顔を押さえてうずくまってしまった。そして、かすれたような声で恥ずかしさを漏らした。

 「キス……交際が最後まで進んでらっしゃる……恐ろしや。恐ろしや」

 この人にとってキスって恋愛のラストイベントなのか……と思ったが、俺も対象年齢広めな恋愛アドベンチャーゲームの主人公だから、キスして終わりというのも概ね間違ってはいないのかもしれない……。


                               第69話の2へ続く


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