第68話の6『発覚2』
しかしだ。ここにきて、ブレイドさんが姫様の妹だと知れたのはラッキーだったのかもしれない。どうにかこうにか、俺は姫様を説得して勇者歓迎祭での告白を回避したい。妹のブレイドさんならば、姫様に言伝などしてくれる可能性はある。ダメ元の気持ちで、俺の現状をブレイドさんに明かしてみた。
「俺、セントリアルとは一緒に戦えないんですよ……姫様に諦めてもらいたいんです」
「え……どど……どういうことですか?」
「俺、好きな人がいて、その人と旅を続けたいんです……だから、姫様のお誘いは断るつもりなんです」
「……」
ついさっきまで男扱いされて怒っていたブレイドさんだったが、俺の話を聞くと驚いたように目を丸くしてしまった。その末、ブレイドさんは思考停止したように口を開いたまま沈黙してしまう。
「……ブレイドさん?聞きましたか?」
「え?あ……聞いておりません。何も聞いておりません!」
「……ん?」
俺の話、聞いてないの?いや……聞いてなかったとしても、言い訳するなら『聞いてる』って言った方がいいんじゃないの?
「……あ!」
なんで、俺に対して『聞いてますよ』じゃなくて、『聞いておりません!』なのか疑問に思ったが、次の瞬間には俺の中で答えが出た。すぐさま、何を聞いたのか追及する。
「聞いたんですね!姫様から、何か!」
「え!?聞いておりませんとも!代わりの者をお呼びします故!」
「あっ!待ってください!」
逃げ出したブレイドさんを追いかけ、何とか彼女の肩をつかんだ……その拍子に思いっきりすっ転び、俺は痛みも感じないまま体を床にバタリと倒した。まったく体に力が入らない……そうだった。体の痛みを魔法で消してるから実感がなかったが、俺は怪我人だ!
「ま……待ってください。ブレイドさん……置いてかないで」
「きゃー!トキメイ殿!」
俺の体をはった引き止めが成功した……というか、哀れな怪我人を同情するように、ブレイドさんは俺を車いすへと戻してくれた。すると、ちょっとお互いに冷静さを取り戻したようで、ブレイドさんは声を弱らせながらも俺に謝罪の言葉をくれた。
「失礼いたしました。失礼いたしました……ワタクシ、赤面の至り。お詫びの言葉が足りませぬ」
「……いえ、俺こそ申し訳ございませんでした」
そんな謝り合いが行われ、俺とブレイドさんは同時に溜息をついた。その後、ブレイドさんは少し恥ずかしそうな仕草を交えながら、姫様と交わした話を聞かせてくれた。
「武闘会でトキメイ殿が優勝された日、姫様はワタクシにおっしゃいました。その……お兄さんは欲しくないかと。きっと、みんなも喜んでくれると」
「……」
ブレイドさんのお兄さん……まあ、普通に考えて姫様の婚約者ということになる。とすれば、今夜の姫様の問いかけというのは、間違いない……俺へと告白だ。そんな予想はしていたが、それは絶対に断らなければならない。そうして俺が考え事をしていると、ブレイドさんは続きを述べ始めた。
「そのお話をうかがいまして、ワタクシ……ワタクシ」
「……?」
「その……ああ、あらゆる多才に恵まれた姉様。この度の一度くらい」
「……」
「……フラれた姿が見てみたい。そのような気持ちが込み上げ……その記憶を思い出した故、気が……動転してしまいました……ああ、はしたない」
「そう……ですか」
俺も姫様の告白を断ろうとしていた身だが……他人の口から改めて聞くと、それまた酷い話だと思い知ります……ブレイドさん。
第69話へ続く