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第68話の3『答え』

 「……」

 「……」

 「……」

 その場にいる全員が思考を巡らせているらしく、10秒ほどもある長い沈黙が訪れた。俺としては姫様に軽蔑されても全く構わないくらいの気持ちな訳で、この場で城を追い出されようとも覚悟の上である。アマラさんは姫様の反応を後ろで見守っていて、姫様はといえば不機嫌な態度を見せるでもなく、俺を憐れむ目をしている訳でもない。そんな静かな空気の中、続けて俺が声を発した。

 「世界は救います。俺が仲間と……」

 そこまで俺が言ったところで、姫様の指先が俺の口へ優しく触れた。口をふさがれた……というよりかは、それ以上は言わなくても解るといった動作であった。俺の言葉をさえぎると、姫様は穏やかな口調で告げた。

 「あなたが好意を寄せる相手。心。感情。理解しよう。ワタクシは……」

 もっと激しい反応がくるかと身構えていた為、俺に理解を示す対応であったことに少し驚いた。姫様にも、本当に好きな人がいたりするのだろうか。そう考えてアマラさんの方を見てみたが、自分じゃないと否定するように姫様の後ろで手を振っていた。あの人、色々と察しがいいな……。

 「だが、勇者様。ワタクシ、諦めは悪い女なの。今夜、その今一つ」

 俺の口から指を離すと、姫様は吐息がかかるほどの近さで俺に耳打ちする。

 「ワタクシの声、あなたの心に答えをいただくわ」

 ふわりとした花のような香りを残して、姫様は後ろに歩きながらベッドから離れた。そして、俺を試すような、挑戦的な笑顔を見せると、あとは何も言わずに病室から去っていった。

 「……はぁ」

 俺は体中が汗まみれで、それが恐怖によるものなのか、はたまた女の子に近づかれて緊張したからなのか、考えても考えても答えが出なかった。ただ、今夜あるであろう姫様からの問いかけに対して、返すべき言葉は決まっている。それについては俺の意思は固い。しばしのクールタイムをとってから、アマラさんが俺に声をかけた。

 「テルヤ君。なかなか立派だったね」

 「……いえ。ところで、姫様は好きな人とかいるんです……かね?」

 「そうだな……」

 情報収集までにと、先ほどの疑問をアマラさんに渡してみた。ただ、そこについてはアマラさんも詳しくないのか、思い当るまでに少し時間を要した。

 「姫様の寝室に、写真が……おや?」

 アマラさんのセリフをさえぎる形で、ドアをノックする音が聞こえる。俺はアマラさんと顔を見合わせた後、もしや姫様が戻ってきたんじゃないかとドギマギしつつも入室を促した。

 「ど……どうぞ」

 「失礼いたます」

 扉を開いて入ってきたのは……ブレイドさんであった。ブレイドさんはアマラさんにお辞儀をして見せると、俺の方へと向き合ってハキハキと宣言する。

 「先程、本日の勇者様お世話を任命されました。ブレイドです。よろしくお願い申し上げます」

 「あ……そうでしたか。こちらこそ、よろしくお願いします」

 このタイミングでお世話係が交代になったということは、つまるところ……そういうことなのだろう。アマラさんも姫様の言わんとすることを理解すると、俺に言い訳をしながらドアの方へと歩き出した。

 「……告げ口、助言のたぐいは野暮かもしれないな。では、私は失礼する。ブレイド君、あとは頼む」

 「はっ!」

 本当はアマラさんの話を聞きたかったけど、姫様が怒ると怖そうだから無理はさせられないな……そんなことを俺は考えながらも、この部屋で何が起こっていたのか詳しく解らず、微妙にハテナマークを出しているブレイドさんで和んだ。

 「……そうでした!トキメイ殿、朗報でございます!」

 「な……なんですか?」

 何か報告を思い出した様子で、ブレイドさんは畏まった敬礼をしつつ俺に話し始めた。

 「本日、勇者様歓迎祭でございます。そちらに際し作成を致しました、勇者様みこしの造形が非常に上出来でございます!」

 忘れてた……そんな祭りもあったんだな。ていうか、勇者様みこしなんてあるの?

 「髪型の一つ一つまで精巧でございます故、見に行かれますか?」

 「いいです……」

 しかも、俺の形なの……。


                                第68話の4へ続く


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