第68話の1『不信感』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。セントリアルの人たちとのやりとりもあり、今後のことについて仲間と話し合いをする必要があると考えた。病室から逃げ出した俺は運よく宿まで到着したが、深夜なので仲間の半分くらいは眠っていた……いや、別にいいんだけど。
***
老人と友達は眠ったとの事なので、そのまま俺は女子部屋へと失礼する事となった。俺が来るのを知っていた割にルルルはパジャマだし、俺が来たのを知ってもベッドに寝たまんまだし、もしかして俺が宿に辿り着けないとタカをくくっていたんじゃなかろうか。
「オジャマしますね」
俺が申し訳程度に頭を下げつつ入室すると、ゼロさんがデスクに備えられているイスを貸してくれた。女の子の部屋というのはなんにせよ緊張するもので、イスに座ったまま俺は肩や肘を硬くしている。そんな俺に対してゼロさんはベッドに腰掛けていて、その姿には横で第三者幼女が見ている状況にも関係なくドキドキしてしまう。
「で、お兄ちゃんは何を話に来たのん?」
「あ……あぁ、それだ。実は、セントリアルの人たちが俺達と一緒に戦ってくれると言っていて、それについて相談に来たんだ」
こっちを見ないで話を催促しているルルルの態度が気になるが、俺は気にせずゼロさんの方を向いて説明を始めた。とはいえ、大方の事情については手紙に書いたし、そこについてはゼロさんの納得も早い。
「……それは、良い事ではないのか?」
「はい。みんなの事も隊で歓迎してくれるっていいますし……俺は悪くない提案だと思ってるんですけど、一存では決められなかったので相談に来ました」
「……あたち、それだったら一緒に行くのやめる」
俺が詳細を語るより早く、ルルルから拒絶発言が飛び出した。珍しく機嫌が悪いようで、ここは少しなだめた方がいいんだろうか。確か、ルルルはバンさんとは面識があったはずである。それについても話してみよう。
「レジスタで会った、バンさんっていう隊員さんにもセントリアルで会ったし、ルルルも仲良くやれるんじゃないかと思うんだけど……」
「……あのね!ゼロちゃん、聞いてほしいんよ!お兄ちゃん、城で姫やメイドに世話してもらってデレデレだったんよ!」
「……ん?」
あれ?なんでルルルが城でのことを知ってるのか……そう考えたと同時、すぐに答えが出た。ルルルが、どこまで俺のことを見ていたかは解らないが、これはよろしくない!すかさず反論を述べた。
「あっ!さては、見に来てたな!体を透明にして!違います!俺は動けなかったから手伝ってもらってただけですよ!」
「勇者……そうなのか」
「そうですそうです!」
ゼロさんは怒るでもなく悲しむでもなく、なんだか腕を組んだまま考え込んでしまった。ただ、ルルルの俺に対する疑惑は他にもあるようで、それについても枕を抱きしめてギューギューさせながら文句を言っている。
「手紙にも城に来るなって書いてあったし、城で良い物を食べたり、女の子に優しくされたりするのを邪魔されたくなかったんじゃろう!」
「あれは、きっと、俺たちを仲間に引き入れたいが為に優しくしてくれてたんだろう。だから、みんなにも同じく優しくしてくれると思うけど」
「あまつさえ、男の人にご飯、あーんしてもらってた!」
「……そうなのか?勇者」
「してもらいましたけども」
それは、まぎれもない事実である……でも、それは別にいいんじゃないかと思う。
「じゃあ、お兄ちゃん。明日、みんなで城に行っても大丈夫なのん?」
「それは……」
ルルルの言葉に同調して、ゼロさんがマバタキも少なく俺を見つめている。だけど、来てもらったら何か、イヤな予感もする……かといって、このまま街から逃亡したとして、あの力に貪欲な姫様だ。それはそれで事件が起こる気もしている……答えられずにいる俺を相手に、ルルルが痺れをきらしてしまう。。
「あ、躊躇するってことは、そういうことなんね。どうして、あたちたちが一緒に旅してるか、よく考えてみるんよ!」
「どうしてって……なんで?」
「な……なんでって……バカバカ!バーカ!」
正直に聞き返してみたところ、ルルルの方が恥ずかしくなって毛布に潜り込んでしまった。ようするにだ。ルルルはゼロさんと俺が仲がいいのは許せるけど、それ以外の女の子と俺が仲良くするのは嫌なのだ。そんなルルルの意見はともかく、ゼロさんの意見としてはセントリアルと仲良くするというのは、どうなのだろう。そう考えていたところ、ゼロさんから先に声を発した。
「私は……元々、セントリアルとも縁がある。しかし、なにより勇者の為に戦いたい。それもふまえてだ」
「……?」
「……私は、どうすればいい?」
……そこまで直接的な表現で言われるとは思ってもみなかった為、俺の方が面食らってしまって、ふと頭の中が真っ白になってしまった。うん……俺だって、ゼロさんが一緒にいてくれなかったら、魔王を倒す旅の気力なんて今まで続かなかったと思う。そうだ。彼女を悩ませたくない。俺は城の人たちに嫌われてでも、全て自分で姫様に話をするべきなんだと思う。
「俺は……あ……うわ……あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
返事をしようと姿勢を前のめりにした……その瞬間、俺の体に激しい痛みと、骨の髄から通じるような痺れが走った。なんとか返事を絞り出そうとしたが、座っている事すらままならない。俺は体の重心を崩して床に倒れ込み、抑えられていた痛みに負けて、そのまま意識を失ってしまった。
第68話の2へ続く