第67話の5『姫様』
「魔王四天王の居場所……判明してるんですか?」
「一際、魔力の強い場所があった。それしか、私は聞いていないよ」
「魔力の強い場所ですか……」
以前、ジ・ブーンのいる城の近くに行った時も、キメラのツーさんが魔力に反応していたな。だから、魔力の強い場所に行けば、魔王四天王に遭遇する可能性は高い。だからといって、キメラのツーさんが反応するまで大陸の隅々を右往左往するのは避けたいところではあるが、特捜課の掴んだ情報に関してはバンさんの報告書が完成しない限り、アマラさんすら知る事ができない内容なのだろうとは思われる。
「テルヤ君が姫様と仲良くしてくれたら、調査報告書も開示できるかも解らないけどね」
「……でも、俺……姫様の期待に応えられるような人間じゃないですし」
「……うちの姫様、君には、どう見える?」
ふと、アマラさんは自動販売機のようなものの前で立ち止まるとコインを入れ、そこから出てきた飲み物の缶を俺に渡した。缶には何か果実の絵が描かれているから、くだもののジュースと見て間違いはなさそうだが……自販機から缶が出てくる際、ちょっとだけ自販機の中に人の手が見えたのが気になる……。
「俺から見た姫様は……とても意思が強くて、自分の考えが間違っていないと信じていて、実際に力もあります……」
「そうだね。でも……」
「……見ていて不安になります」
セントリアルおよびサーヤ姫は大勢の人たちを集め、多くの街や集落を味方に引き入れている。そして、それを繋ぎとめるための努力もしているであろうことは、トチューの町に防衛隊員を派遣している様から見ても解る。ただ、傍目に見ると……自分以外のものへ用心しすぎている感じもするのだ。
街の人に非難されたくないから自分の力を惜しみなく見せつけるし、他の街や村についても裏切られたくないから出資はいとわない。じゃあ、世界に一つしかないものを手に入れるとしたら、どのような手段に出るだろうか。それを考えると、俺は姫様の目を見て話せないのだ。
「確か……この前、姫様は、俺に何を差し出すか考えていると言っていました」
「勇者の力がなくては、どれほど強くとも魔王四天王には勝てない。私は、そのように聞く」
「多分、それは本当のことだと思います」
「テルヤ君が言うのならば、そうなのだろうね」
アマラさんの持っている飲み物の缶には魚の絵が描いてあり、その中身は想像を絶して不明である。だけど、それを聞くには少し雰囲気がシリアスなので、俺は姫様の話題をアマラさんに渡したまま、黙ってジュースを飲み込んだ。
「……私はね。君たちが来てくれて、なんだか姫様が少し変わるんじゃないかと、そんな予感がしているんだ」
「姫様がですか?」
いつも人の反応を見て面白がっているアマラさんが、普段よりも目を細めて俺に言うのだ。そうなのか。姫様は強そうに見えるけど、きっと俺と同じで不安なのだ。そして、俺はゼロさんをヒロインだと決めているから、姫様の大切なものは、恐らくもらうことができない。
「……アマラさん。俺、宿に行って、みんなと話をしてみます」
「そうだね。行こうか」
逃げ出すことばかり考えていた俺だったが、ここにきて別の選択が見えてきた。それも含めて、仲間たちとは、よく話し合ってみないといけない。飲み終えた缶をゴミ箱へ入れると、俺とアマラさんは再び宿へ向けて歩き始めた……が、その前に少し、自販機へ声をかけてみた。
「……あの、中で働いてるんですか?大丈夫ですか?」
「……あ……うん。閉じ込められるの、好きだから」
よかった……自販機の中の人は無事だ。だけど、彼が精神面で無事なのかは俺には解らない……。
第67話の6へ続く