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第67話の3『言い訳』

 「用があるなら、鐘を鳴らしてくれていいのに」

 「えっと……えっ?」

 「ところで、どうして隊の制服を?」

 「……いやぁ」

 いるはずのない場所でアマラさんと遭遇してしまい、なんだか混乱して適当な言葉が一つも出てこない。かといって、ドアを閉めて戻ったらブレイドさんと鉢合わせるし……などと迷っている内、アマラさんとブレイドさんに前後から挟み込まれた……。

 「失礼ですが、そちらの方。着用している制服を拝見したく存じます故……」

 「あぁ、テルヤ君。ダメだよ。人の制服を勝手に持ち出しちゃ」

 「すまん……勇者。ブレイド君に気づかれた」

 制服の持ち主に着ている所を見られた上、それを偉い人にも同時に見られた上、助けてくれた人にも謝られてしまい……辛さが凄い。とりあえず、制服は返した方が良いのか?うん。返した方が良いな。

 「脱ぎますので、ちょっと待っててください……」

 俺はアマラさんがいる部屋へと押し入り、制服の上着を脱ぎ始めた。そんな俺を追って、微妙に都合が悪そうな表情でバンさんもアマラさんの部屋へと入ってくる。しかし、バンさんはアマラさん相手でも畏まることなく、すぐに俺へのフォローをくれた。

 「アマラさん。まぁ……なんにせよ、制服が見つかったってことで」

 「そうだね。でも、私には気になることがあるんだよ。バン大佐」

 「俺、もう大佐じゃねぇよ。防衛隊第一特捜課隊長だ」

 「そうだったかな?で、テルヤ君……脱走の途中なのかい?」

 ……やっぱりバレた。アマラさんは別に怒ってる感じじゃないけど、逃げ出そうとしたことが姫に知らされたりでもしたら、どんな顔をされるか目に見える。とっさに俺は、話題のすり替えを図った。

 「そうではないんですが……まさか、街にアマラさんがいるとは意外でした」

 「事件が発生した場合、緊急出動しないといけないからね。街の目立たないドアと、病室の隣の部屋を魔法で繋いでいたのだよ」

 なるほど。レジスタで見た、穴と穴を繋げるワープの魔法か。すると、魔法を使える人の間では割とポピュラーな魔法なのかもしれないな。それはともかく……偶然、その扉に入ってしまった俺は、運が非常に良いか、もしくは悪いか定かでない。

 「それで、テルヤ君……脱走するのかい?」

 あえなく、話題を戻されてしまった。しかし、どう言い訳をしよう。場合によっては、バンさんが脱走の手助けをしたとして罰せられるかも解らない。俺が悩んでいると、バンさんは気軽な調子で自分の解釈を述べた。

 「あれだろ?夜なら街の人たちに気づかれず、仲間のところに行けると考えたんだろ?人気者みたいだし」

 「そう!そうなんですよ!体の調子も、姫様の魔法で良くなったみたいだったので行ってみようかなと!ブレイドさんの制服を着ていたのも、目立たないようにする作戦だったんですよ!」

 「そうなのかい?姫様の魔法は朝には解けるだろうし、あまり無理はしない方がいいね……」

 バンさんに言い訳を手伝ってもらいつつ、俺は早口で考えついた限りをまくしたててみる。言われてみれば、ちょっと体に痛みが戻ってきている気がする。しかし、それはアマラさんの言う通り魔法が解けてきているのかもしれないが、滑り台で痛めた可能性もある為、なるべく痛そうな感じは隠すようにふるまった。

 俺の言葉を聞くと、少しだけアマラさんは腕を組んで考える様子を見せていたが、何かひらめいたように目を開くと一つ提案を示した。

 「理解した。では、私が共に宿まで行こう」

 「……え?いいんですか?」

 「あぁ、いいとも」

 てっきり病室へと戻されると思っていたから、俺はアマラさんの答えを聞いて拍子抜けしてしまった。アマラさんが一緒というのが逆に心配でならないが……とにかく、仲間の皆に会えるのは非常に嬉しい。ここで断ると、しばらく仲間に会える機会がないと見て、俺はアマラさんの提案に賛成した。

 「アマラさん。よろしくお願いします……あっ、その前に病室に寄っていいですか?」

 「いいよ」

 部屋を出ようとした直前になって、俺は病室に残してきた置手紙のことを思い出した。仲間に会って話をする名目の脱走となってしまった以上、俺が不在の間に手紙が見つかるとつじつまが合わなくなる。回収しておきたい。

 「ちょっと忘れ物がありまして……すぐに戻ります」

 「それって、手紙のこと?」

 「……えっと……なぜ、それを」

 「え?だって、もう読んだから……」

 読んだのか……どおりで話が早い……。 


                                第67話の4へ続く


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