第67話の1『迷路』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。大会に出場し優勝したものの骨折し、城にて治療を受けていたが今は脱走を試みている。今は城の下層へ向かって滑走中。
***
中間地点を抜けてからも度々、城の下層へ向かって伸びる滑り台は城外へと飛び出しており、中でも途中で滑り台が途切れて段差状になっている場所が個人的に最恐であった。というか、俺は滑り台の最後の方じゃ既に意識を失っていて、ゴール地点で失神していたところをバンさんに起こされる始末であった。
「おぉい。大丈夫か?」
「……ぁ……は……はい」
滑り台の出口はゴミ捨て場のような場所に繋がっていて、薄暗い部屋の端っこについているドアからは光が漏れている。バンさんが壁を叩くと、それに反応して部屋の灯りが強まった。
「バンさん。ここ、どこですかね」
「外に出てみれば解る」
と言うので……扉を開いたバンさんのあとを追うと、そこは何か……なんか解らん店の中であった。
「……店は仕込み中ですじょ……おっ?勇者かじょ?」
「あ……その節はどうも」
カウンターの奥から出てきた人は、どうも見覚えのある顔である。あの人は……俺の包帯を代えに来てくれた豆屋のおじさんだ。しかし、なぜ滑り台の出口がが豆屋に。店主に話をうかかってみた。
「ほら。一番、繋がってなさそうなとこに繋がってる方が、セキリテイの面で安全だからだじょ」
あの滑り台を下から登って城に潜入する猛者は滅多にいない気がするけど、なんにせよ用心にこしたことはないのかもしれない。しかし、さっきの部屋は微妙に青臭い臭いがしたけど、あれは豆の臭いだったんだろうか。
「ちなみに……隣の部屋ってなんなんですか?」
「豆倉庫だじょ。せっかくだし、一杯やっていくかじょ?」
「お酒ですか?」
「豆汁だじょ」
「いや……いいです」
今は先を急ぎたいので誘いをお断りし、そそくさと俺は豆屋さんを退店した。そしたら、豆屋の出入り口を開いた先は街の役所っぽい場所に繋がっていて、デスクワークにはげんでいる隊員の方々が深夜なのに大勢いた。しかも、事務員の制服は俺とバンさんの制服とはデザインが異なっていて、そこに入っていくと存在が非常に浮く。
「……おや。武闘派衆の方が、こんな時間にどのような御用で?」
「あ……いえ。すぐに失礼しまーす」
なんで豆屋の隣に役所があるんだよ……そう思いながらも、俺は帽子を深く被って頭を下げながら事務所を通り抜けた。とりあえず、目についたドアを開く。そしたら、その先はお手洗いであった。
「……武闘派衆の方、わざわざお手洗いを借りに?」
「間違えました……」
「おーい。こっちだぞ」
バンさんが床についているフタを持ち上げ、その中を指さしながら俺を呼んでいる。カラクリ屋敷みたいだな……そんなふうに思いながら下の階へと降りる。したら、そこは遊技場のような場所で、ダーツの的っぽいものやビリヤード台っぽいものがキラキラと輝いていた。人の姿も、わりと多いな。
「どうして役所の下にゲームセンターが……」
「いや、ここはレストランだぞ」
まるで迷路である。もしかすると、一人では街にも辿り着けなかったかもしれない……しかし、なぜ役所の下にレストランが。
第67話の2へ続く