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第66話の5『持ち主』

 ヤチャがサイン会をすることには驚きはしたものの……それ自体に問題はない。しかし、楽しみにしている人のことを考えると、逃げ出すように街からいなくなるのは後ろめたい気持ちである。俺だって勇者歓迎会みたいなのを用意されているわけだし、それを知った上でバックレちゃうというのも印象は悪い。

 まぁ……とにかく、みんなと相談してから考えよう。そう決めると、俺はT字になっている曲がり角から右の道と左の道をのぞき見た。さっき隊員の人たちが行った方は避けたい。左右に誰の姿も見えないことを確認し、俺は右側の道へ向かって足を動かした。

 「……どうした?探し物か?」

 急に俺の背後から声が聞こえ、俺は声の主の方は見ないまま足を止めた。周りには他に誰もいないし、俺に向けて言っているのは間違いないのだろう。となれば、おどおどしている方が怪しまれる気がする。ここはハッキリと返事をしよう。俺はボウシを深く被ったまま、うつむいた状態で振り返った。

 「いえ、深夜の見回り、異常なしでございます!」

 「……勇者じゃないの?どうした。こんなところで」

 すぐにバレた……俺、そんなに存在感はある方じゃないと思ってたんだけど、なんで気づかれたのか。いや、犯罪を犯している訳じゃないし、言われたとおりに病室へ戻れば怒られはしないだろう。まだ慌てる時間じゃない。そんなことを考えながら、伏し目がちにも相手の顔を見上げてみる。あれ……この人、会ったことあるような気がする。

 「……あ……あれ?レジスタで会いませんでした?」

 「よくおぼえてたな。まあ、2回くらいしか顔はあわせてないが」

 そうだ。たしか……この人、レジスタで俺がルルルとケンカしてた時、手紙を持ってきたリしてくれていた隊員さんだ。顔に印象的な傷があるから、すぐに誰なのか思い出せた。隊の人に見つかったことに変わりはないのだけど、お話を聞いてもらえそうな相手と解り少し安心する。

 「そちらは、こんな遅い時間までお仕事ですか?」

 「うぅ~ん。なんかね。ブレイド君が制服なくなったって言ってたから探してあげてんだけど、どこでなくしたのやら」

 あぁ……これ、ブレイドさんのだったのか。その道理で、ちょっと小さい訳である。ふとして制服の持ち主に目途がつきつつも、隊員さんは大会の話題を持ち出した。

 「ところで……あんた、武道会で優勝したんだって?やるなぁ」

 「あ……ありがとうございます」

 「で、隊に入隊したわけじゃないんだろう?」

 「ええ、まぁ」

 ここで制服を返すと、城の外まで行くのは困難になるに違いない。かといって、持ち主が解っていながら、制服を勝手に城外へ持ち出すのは問題である。ここは一か八か、正直に話をしてみることにした。

 「実は今、城の外に行こうと思ってまして」

 「へえ。ケガは?」

 「なおってはいないんですけど、ひとまず姫様の魔法のおかげさまで……」

 「……ああ、解った。外まで案内してやるよ」

 おや?思いがけず、すんなり道を通してくれた。いや、でも……そうは言いつつアマラさんのところまで連れて行かれたりしないだろうか。などと疑心暗鬼になるのも、またアマラさんにしてやられたせいかもしれない……。

 「その代わり、お願いなんだけど……」

 「え……なんですか?」

 「それ終わったら、ブレイド君に制服、返してあげてね」

 「……なんか、すみません」

 疑いの気持ちが晴れたと同時に、なんか申し訳ない気持ちになった……。 


                                 第66話の6へ続く


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