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第18話『解答(なるほどね…)』

 《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。レジスタの街でマントの人ことゼロさんの仲間に会うも、ふとした拍子にツーさんという謎の人物の逃走を許し、そんなツーさんは変わり果てた姿で発見された。


 「ワン。フォー。詳しく聞かせてほしい」

 「博士。詳しく話そうにも、さっきのセリフがワンの知っている全てだワン!」

 「俺は一足、来るのが遅かったから何も解らないぞー!」


 ワンさんの『さっきのセリフ』というのは『ツーが泉の水をすすって、こんな姿に変貌したワン!』的な旨のものなのだが、それ以上に語れることはないらしい。フォーさんは遅ればせなので事情を知らない様子。つまり、泉に引っ付いている棺桶っぽいものが事の全てである。


 博士はツーさんらしきものを間近で観察しつつ、手袋をつけてノックなどしている。俺はツーさんが飲んだと噂の泉の水を見つめているが、それは濁り汚れと例えるのすら生ぬるい。こんな重油のようなものを飲めば、俺は1秒で死ぬ。


 そこで何気なく横を見たら、ワンさんフォーさんも俺と同じく渋い顔で泉の水を見つめていた。おそらく、これを飲んで苦悶する自分を想像しているのだろう。ワンさんもフォーさんも汚れた水が好物ではないとなると、ツーさんが特別な舌を持っている可能性を疑う他ない。


 「……ん?」


 博士が知的そうな独り言をつぶやいている中、どうも博士のとは別の声がブツブツと聞こえる。誰の小言だろうかと探してみたところ、その小声がツーさんらしきものから漏れている事実が発覚した。


 「ショボ……ショボショボ……けがれだねぇ……』

 「……博士。中から何か聞こえますよ」

 「むう……?」


 博士と二人、ツーさんの傍で耳を澄ましてみる。妙に甲高い男の声と、じゅるじゅるという泉をすすっているような音が重なって聞こえる。


 『ああ……けがれた魔力だねぇ……うれしいねぇ。びゃ……ぴゃああああぁ!』


 注意深くツーさんの声を聞いていたのだが、鼓膜が壊れるくらいの奇声を唐突に発され、俺たちは酷く耳を痛めた。それを境にツーさんの感情表現はテンションを上げていき、今となっては声が大きすぎて逆に何を言っているか解らない。


 『最強の力!全て取り込んでやるねぇ!最強の私の力と一つになれ!あああああぁ!』


 バキバキという痛々しい音をたて、ツーさんを覆っているものは肥大化し、禍々しく伸びた骨格のシルエットが中に見える。ツーさんの意思に邪悪なものを感じたのか、博士は冷や汗を露わとしつつ叫ぶ。


 「緊急事態!フォー、街の人々に避難勧告!ワンとスリーは引き続き監視を続けてくれ!」

 「承知しました!」

 「ここは任せるワン!」

 「……博士!俺、地下にいる仲間を呼んできます!」

 「私は研究所に戻り、資料に目を通してみよう!テルヤ君!あとで研究所に来て欲しい」

 「解りました!」


 まだ街の構造は把握していないが、この場所からならば迷わず地下まで降りられる。ゴミ処理場へ降りるハシゴまで辿り着き、そこへ足を降ろそうと穴を覗き込んだ。そこには、骨と皮しかない顔が潜んでいて、驚き余って穴に落ちそうになる。


 「うわっ!やつれた骸骨!」

 「ファイア!ファイア!オイヨイヨ!」

 「ガイコツに、やつれたもなにもないんよ……」


 骸骨に見えたものは乗り物に残してきた仙人で、その後ろには精霊様もいる。確かに骸骨だったら皮がないから、そもそもやつれていないし、仙人は歯の部分に骨すらない。それはともかく、呼びに行く手間が省けて助かる。


 パッと視界が赤く染まり、重々しいサイレンが空気を振動させる。街の所々にあるドアからは大勢の住民が現れ、街の中央に走っている通路を足早に進む。多分、その誰もが街の避難経路を辿っているのだろうが、一体どこから安全地帯へ出るつもりなんだろう。彼らのあとを追う形で、俺たちも街を登る。


 「勇者。何があった」

 「あっ……ゼ……いえ、それが……」


 ふと背後よりマントの人……改め、ゼロさんに呼び止められた。ただ、なんとなく恥ずかしくて名前は呼べなかった。丁度いい。仙人たちにも事情を説明しないといけないし、真実の泉がある場所へ差し掛かったついで、そこで起こった事件を言伝する。


 「キメラのツーさんが泉の水をすすって、あんな姿に変貌したんです!」

 「勇者。詳しく聞かせてほしい」

 「正直、俺にも、ワンさんにもフォーさんにも、これ以上のことは……」


 ゼロさんが博士と同じ文句で情報を要求しており、実の親子でないにしろ、どこかしら繋がりを感じる。しかし、心なしかツーさんの入っているサナギのようなものが、また大きくなっている気がする。それと同時に泉の水が減っていて、それを養分としていることは安易に予想できる。


 「ワン。これがツーなのか?」

 「ツーが泉の水をすすって、こんな姿に変貌したワン!」


 見張りをしてくれているワンさんにゼロさんが質問してみるも、さっき聞いたことと同じ内容が返ってくるばかり。そんな折、腕組していた精霊様がツーさんを見つめつつ、不確かな発言をしている。


 「……模様とかは微妙に違うが、これは魔物箱のような気がするんよ」


 「魔物箱?」


 「魔物は穢れの多い場所で魔物箱に引きこもって、より強く進化すると聞いたんよ。あたちも抜け殻しか見た事ないが」


 それが本当だとすると、博士は研究所で魔物を育てていたことになる。でも、博士も魔物箱を見るのは初めての様子だったし……とにかく、話を聞いてみる他ない。研究所へくるよう博士に呼ばれていたのを思い出し、研究所へ続くドアがある広場へと急いだ。


 研究所へのドアは開けっ放しになっており、避難を始めている街の人々は落ち着いた足取りで扉をくぐっている。研究所へと繋がっている遠い場所へワープできる扉が、街からの避難通路としても機能しているようだ。


 「博士!戻りました!」

 「博士なら向こうに行ったよ」


 研究所に入って右手には戸のない通路があり、街の住民は皆、そちらへと列をなして進んでいる。避難してきたと思われる老人に教えてもらい、俺たちは左側の隅にある重そうなドアを開く。


 「博士、いますか?」

 「ああ、テルヤ君。まいったな」

 「はい。参りました……」


 困ったことがあった『まいった』なのか、『参った』なのか解らず適当に返事をしてしまった。博士は大量のバインダーが収められている棚の前で、ボロボロに拍車をかけたような壊れかけのファイルを広げ、眉間に深いシワを作っている。


 「あの、お聞きしたい事が……」

 「ああ。お答えしよう。どうやら、ツーの体に魔物のパーツが混じっていたらしい」


 まだ何も聞いていないのに俺の聞きたかったことと、抱いていた疑念を一蹴してきた。この人、まず悪い人ではないが、とにかく性格はせっかちと思われる。


 「勇者。あたちたちにも解るよう説明するんよ」

 「そうですね。実は……」

 「ほほう」


 精霊様に促されて口を開き、あれやこれやを解説するが、その模様は割愛する。博士も魔物箱の存在に関しては初耳の様子で、そちらについて言及している。


 「あの棺は魔物箱というのか。無理やり破ってしまうと、誰かの命に関わるのだろうか」


 「うんにゃ。聞いた話によると、魔物の進化を一時的に止められる代わり、箱の周囲10キロに腐った卵の臭いが蔓延して数年は残るとか」


 「ああ。さてはバイオテロだな……」


 魔物箱を大量に作って破り続けたら、手っ取り早く世界滅亡させられるんでないかと想像したが、それをしないということは魔王軍も腐った卵の臭いが嫌なのだと瞬時に察した。 


 ツーさん問題への解決策に辿り着かず、博士は書類を眺めつつ考え込んでしまう。しかし、まだハッキリしていない件がある。それはゼロさんにも関係する話だし、ある意味では博士が行っている研究の核心だ。博士のセリフの節々にキーワードが覗けるため、ここで質問を差し出す。


 「……博士。キメラって……どうやって誕生するんですか?」


 「ああ。それを伝えていなかった。パーツを収集し、時間をかけて合成するのだ」


 「パーツ……?」


 「神経の残っている生体パーツを各死体より採取。そちらを死亡して間もない核……心臓に近い胴体部分に結合し、殺菌済みの溶液に漬け込み、長時間ねかせる。時を見て揉み込み、弱火に通し、粉をまぶして油を塗る。経過を見てエッセンスを足し、目覚めの時を待つ」


 途中から料理工程みたいになってますが、それって。


 「博士は墓荒らしをしている方……」

 「ああ。それは言われたくなかった。だが、悪さをしている自覚はない」


 確かに……パーツは全て死亡したものな訳で、そこから一つの命が生まれているとなれば、命を粗末に扱っているとは言い難いかもしれない。が、そのパーツパーツの遺族に関してはお悔やみ申し上げる。


 「あと、それならキメラの人たちは……」

 「ああ。何を食べているのかというと、それに関しては胃の作りに準拠する」

 「いえ、ごはんのことじゃなくて……記憶とか、性格は誰のものなんでしょうか」

 「……」


 とんとん拍子で進んでいた答弁が、ここにきて何故か途絶えた。あれ……もしかして。


 「博士……まさか」

 「初めて気がついた。彼らは一体、何者の精神を受け継いでいるというのか」

 「……盲点でしたね」

 「すぐに調査しなくては。ゼロ。初めて目覚めた際、何か記憶はあったかい?」


 科学者特有の聞く耳を持たない感じが出てしまい、俺は博士の調査意欲を止められない。また、不意に話題の矛先を向けられてしまったせいか、ゼロさんの態度が普段に増して露骨に素っ気ない。


 「記憶……いや、特には」

 「好きな食べ物はあったかい?」

 「……いや」

 「好きな人は?」

 「……別に」

 「……この件は迷宮入りか」

 「博士。がんばってください……俺は知りたいです」

 「あたちが言うのもなんじゃが、そんな話をしている場合ではないんよ」


 ゼロさんの過去が気になりすぎて、精霊様に突っ込みを任せてしまうとは。確かに……ここは恋愛アドベンチャーゲームの世界ではない。バトル漫画みたいな世界なのだ。街の危機を放っておいて、恋愛感情を前面に出してはいけん。


 「そうは言っても幼女の人。ああ。この話題は、あてもない見当違い……とも断言できない。なぜか」


 「なぜじゃんよ……」


 「それはだ。真実の泉から正確な情報を引き出したキメラは、このゼロだけだったからだ」


 (それがなんだというのだね……)


 「むう。老人の声が直接、頭に入ってくる……なんだこれは。頭がおかしくなる……」


 「仙人……ややこしくなるのでテレパシー使わないでください」


 「まあ、いい。結論。ゼロの体の部位ないし、記憶は泉に関連している。その真実が、泉の穢れを中和し、ツーの成長を止めるだろう。憶測だがな」


 博士が希望的観測を打ち出してしまい、かといって他に案もない訳だから、俺を含めた一同は頷くばかり。否応に納得はしたが、それを調べている時間があるのかは尋ねておかねばならない。


 「泉に関して知っていた人たちも、記憶を消してしまったんですよね。すると……」

 「証人や、資料が不足している。ならば、現場検証あるのみではないか」


 壁についている無数のスイッチの中から一際の大きさいものを選んで、博士が力強く親指で押し込む。グワガグワガという錆びついた音と共に天井が開き、月と夜空が顔を出す。その向こうに……何か、上半分を失った巨大な山……っぽいものがそびえる。ここって……さては。


 「さあ。テルヤ君。スースースの謎を追う、ミラクルアドベンチャーの開幕だ」

 

第19話へ続く

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