第66話の3『うしろめたさ』
「では、失礼するよ。御用があれば、呼んでくれたまえ」
ご飯を食べさせてくれたりマッサージしてくれたり、あれこれとやってくれた末にアマラさんは病室から撤退した。これほど色々とやってくれるのも、俺が勇者だからなのかだろうかと考えたが、そういやアマラさんはポンと大金をくれるくらいの謎多き人である。故に、気まぐれで人をもてあそぶのが玉に瑕なだけで、実のところ懐は深い人なのかもしれない。
「じゃ、あちしも行くわね」
「セガールさん……ありがとうございました」
「いいっての。まあ、せっかくだから城を見学して帰るわよ」
セガールさんって盗人気質だから、割と城に入れてはいけない人のような気はするが、何か盗られたところで城の人たちは気に留めないようにも思える。そんな城に人たちの期待を裏切ることになるかもしれないが、セガールさんとの会話で踏ん切りがついたし、今夜のヤチャやゼロさんとの話し合いによっては、そのまま俺は城を出ることになるだろうと思う。
早々と置手紙を書いておくと見つかった時に言い訳しにくいので、それについては夕食後に用意しようと考えた。今日はお手洗いにも自分で行けたし、一日を何事もなく過ごせて好都合だったのだが……夕食を姫様が持ってきてくれて食べさせてくれた際、一口ごとに味の感想を求められたのが辛かった……。
「ワタクシ、勇者様の一刻も早い復活を願い。食事の支度をお手伝いしたの。美味しい?」
「美味しいです……えっと、姫様は、どの料理を作られたのですか?」
「お湯を沸かす。素材に火を通す。丹念に。丹念に。どう、美味しい?」
なんとなく料理自体ははカリーナさんの作ったものに思えたからして、姫様は完全に魔法を使える調理器具として活躍した模様である。それはともかく、料理の出来は批判のしようがない為、これを食べられるのが今日で最後になるかもと思うと、ちょっと残念な気持ちではある。
「勇者様」
「はい」
食事が済んだところで、姫様は改まって俺と向き合った。なんだろう……。
「ワタクシ、勇者様の力が欲しい。そのために、何物を差し出そうか考えているの。とても大切なもの。解る?」
「それは……そうなんですか?」
「……いずれ、お渡ししますわ。ふふ」
言葉を返そうにも、姫様のセリフというのは掴みどころがなく、またしても相手のペースに飲まれてしまった。食器を持って姫様が退室すると、俺は廊下に誰もいないことを確認しに行った後、デスクの引き出しから手紙を取り出した。
「……う~ん」
手紙上の文字は一通り書き終わり、置手紙に書いた文章を読み返してみる。すると、たくさんの謝罪の言葉が見て取られた。きっと、俺は根本的に人に嫌われることをしたくないのである。そもそも、人の好感度を上げるのが本分であるからして、そうなってしまうのは当然といえば当然である。
置手紙を封筒に入れたフタをし、城の人たちが寝静まるまで待つことにした。それから少し寝てしまったのだが、ちょうどよく街の明かりが半分くらいに減った頃に目を覚ました。廊下にも人はいない。よし、作戦開始だ。
第66話の4へ続く






