第65話の1『再来』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。オーブを取り返すべく武闘会にシード枠で出場し、運よく優勝したものの骨折および火傷など負傷を極め、セントリアルの城で安静にしていたのだが敵襲警報に驚きベッドから転落した……。
***
「あの、敵襲って……どど……どうするんですか?姫様」
「さぁ、勇者様。セントリアルの街に集う我らの願い、それは魔王を討ち皆を護る事に他ならない。あなた……ワタクシのお話、お聞きになって?」
「……あ、はい」
こんなところで悠長に話している場合なのだろうか……とは思ったが、下手に口をはさむと、お姫様にニコニコと怒られる気がしたから黙って聞くことにした。
「しかしだ。魔王の脅威ともなろう勇者様に力添えする身として、それなりの覚悟と実力を示さねばならぬとワタクシ、考えているの。そうでなくて?ええ」
「いえ、えぇ……」
「よかった!そちらで観戦なさって。皆の者、手出しは無用である。この場で控えなさい!」
「……あれ?ちょっと?」
姫様は床に転がっている俺の前へレンズのようなものを置くと、窓を開けてパッと飛び出していった。直前のセリフからして自殺したわけではないのだろうが、急に何が始まったのか理解が追い付かない。姫様の後ろで待機していたシュッパさんとアマラさんとシオンさんを見つけると、すぐに俺はシュッパさんへ質問を投げた。
「シュッパさん……何が始まったんですか?」
「む……やぶさかではない」
「すみません。やぶさかでお願いします……」
「姫は……なんだ。一人で魔物の群れを倒しに行ったんだなぁ」
「……なんという」
「……僕はシオンです」
シオンさんが俺をベッドへと上げてくれて、ついでに姫様が置いていったレンズを俺の前に差し出してくれる。シオンさん、男の人なのに良い匂いがするなぁ……などと考えていたら、レンズ越しに現われた姫様が俺にウィンクを見せた。かわいいのだが……どこにいるんですか?
『勇者様。ご覧になって。あの無粋な衆、魔族の群れを』
レンズの映像が姫様の顔から夜の風景へと移り、街の外にある森や空には無数の赤い光が見える。あれが全部、魔物なのか?千はいないだろうが……数百はいるか?そう考え始めたと同時、どうやって姫様は飛んでいるのだろうとも疑問に思った。
『こちら、魔王軍将軍、ブシャマシャ!奪われた魔物・ボムバーンを返せ!返せば街は半壊で勘弁してやろう!』
魔王の群れの中央には飛行船みたいなものが飛んでいて、そこから何度か聞いた声が響いてくる。ブシャマシャって確か、レジスタを出る時にヤチャと仙人が撃ち落した人だよな。生きてたのか。よかった。
『きゃはは!魔物は研究に預かった!隅々まで調べつくした末に返却してあげる!』
『ぐぬぬ……相手は魔法使いとはいえ、女一人!撃ち落せー!』
話の流れから察するに、アマラさんが捕まえた引き車ジャック犯がつれていた魔物を街で捕えていて、それを連れ戻すべく魔王軍は攻め込んできたのだと思われる。姫様は魔法が使えて、それを駆使して飛んでるんだろうなぁ。にしても、あの数を一人……。
『魔物の群れよ!静まれ!黙れ!さもなくば、死ね!』
姫様が何か剣のようなものを振り下ろしたように見えた……次の瞬間、レンズ越しに映っていた魔物の影、飛行船のたぐいは全て消え去り、墜落したであろう地面には硝煙か土ぼこりか解らないものが立ち昇っている。これは……どうやら。
『勇者様?どのように、ご覧になって?』
「……」
一瞬だ。ブシャマシャさん率いる魔物の群れが、何かの一振りで撃沈した。その呆気なさたるや、ヤチャや仙人の時の一撃と比べても歴然である。そして……ある種、ブシャマシャさんが戦闘力を図る一つの指標として物語の節々でやられている事実。今後も、強そうな人が出てくるたびに撃墜されるんだろうなぁと予想してしまった……。
第65話の2へ続く