表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/583

第62話の4『全力』

 『長らくお待たせいたしましたぁ!激闘に激闘を重ね続け、ついに真の勇者が、ここに姿を現す!ずばり、強者と強者が戦うと熱い!熱すぎ!最後の最後、これは決勝戦だああぁぁぁ!』

 ステージの方から審判さんのナレーションが聞こえるが、熱狂と勢いに任せたとばかりに後半へ向かうへつれての内容のなさが凄い。観客の人たちもメチャメチャ盛り上がってるなぁ。さぁ、この熱狂を興ざめさせないようにして、どのように負けようかというのが俺の課題である。

 『まずは山サイド!ステージの盤面をボコボコにした張本人!しかし、対戦相手は全員無傷の心優しき筋肉男!その腕力に鬼を秘めた腕力の鬼!破壊の帝王・ヤチャ選手だぁぁぁ!』

 「トキメイ選手。階段上へ移動を願います」

 『わああぁぁぁ!』という歓声が俺の耳に届く。ヤチャがステージに登場したと思しきタイミングで、俺も階段を上がるよう係員の人に名前を呼ばれて促された。しかし、対戦相手全員無傷なのに、どうやってステージをボコボコにしたのか経緯が気になる上、勇者決定戦なのにリングネームが『破壊の帝王』でいいものか、などなど頭の中で雑念が渦巻いてしまう。

 『そして、海サイド!英雄の証持ちィ!準決勝、突然の気持ち悪い攻撃で客席をざわつかせた男!衝撃の嘔吐・トキメイ選手ううううぅぅぅ!』

 全て事実なので否定仕様はないものの、酷くカッコ悪いあだ名が心に刺さる。それより、勇者の資格保有者が現時点で、『破壊の帝王』か『衝撃の嘔吐』しかいない事実が衝撃なのだが……そういった諸々を振り切るようにして、俺は小走りでステージへ駆け出した。

 準決勝の時にはなかったステージへ上がる階段ができており、やっぱり階段がなかったのは建築会社への御発注だったのだなと確信した。それを使ってステージ上へと登場すると、向こう側に仁王立ちしているヤチャの姿が見えた。

 「……テルヤァ!」

 「……よ……よぉぜ」

 ヤチャに大声で名前を呼ばれてひるんでしまい、きさくな挨拶を律義に返してしまう。それにより戦いの準備は整ったと見て、審判さんが試合開始の仕切りを始める。

 『悔いの残らない試合を!両者、見合って見合って……ゴー、ファイ!』

 審判さんが腕を振り下ろしたと同時、俺の頭の脇を衝撃波のようなものが通り過ぎていった。後ろで爆発音が聞こえる。振り向いてみると、俺が出てきた登場口が爆破により封鎖されている。俺はヤチャの姿を再確認した。なんか、体中からオーラが出ている……。

 「決勝戦の場に恥じない試合……ふはははは」

 ……その時、俺は試合前の伝言で墓穴を掘ったことを察した。すでにヤチャの全身からは殺意が溢れていて、今まで対峙したどの敵よりも恐ろしい。涙か汗か解らないものが流れ出してきた。そして、俺の口からは自然と最適解がこぼれ出た。

 「こ……降参しますぜ」

 『おっと、トキメイ選手!余裕のセリフだぁ!』

 「いや、降参……今のは……」

 『降参するなら今の内ィ!そんなトキメイ選手の強気な発言を受け、ヤチャ選手は……?』

 「当たり前……ゼン……リョク……だああああぁぁぁ!」

 しまった。場の空気に飲まれて逃げられない……。


                                    第63話へ続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ