第62話の3『伝言』
「……このあと、ヤチャの控室へ行く」
変な空気と共に面会時間が終了してしまったので、ゼロさんは次にヤチャの控室へ行くらしい。そういや、俺は名前で呼んでもらえないのに、ヤチャと仙人は名前呼びなの少し気になる……いや、そんなことに対して妬いている場合ではない。これを伝言を頼むチャンスと見て、俺はゼロさんを呼び止めた。
「あっ……ゼロさん」
「どうした?」
……ブレイドさんたちがいる目の前で、直接的なメッセージを出すと談合疑惑がかけられる。ヤチャも決勝戦の立ち回りについては理解しているだろうが、大会の場をしらけさせないようにだけは念おししておいた方がいいかもしれない。
「ヤチャに伝えておいてもらえませんか……決勝戦の場に恥じない試合にしようって」
「解った。一語一句、その通り伝えておく」
俺のお願いを引き受けると、ゼロさんはヤチャのいる控室へ向かうべく階段を上がっていった。それを見送ると、なぜかブレイドさんがテンションをあげて俺にエールを送ってくる。
「トキメイ殿。ご伝言からも意気込みがひしと伝わりました。決勝戦も期待しております故、ご健闘をお祈りいたします!」
「あ……ありがとうございます」
ブレイドさん、アマラさんといた時はクールな人っぽく見えたのに、ペンダントを返しにきてくれて以降はポンコツかわいい化が止まらないんだが……実は女の子なんじゃないだろうか。ちょっと転ばしてみたいが、そんなことでペンダントの能力を使うのは気が引けたからやめておいた……。
「ちょっと」
用を終えたから控室へ戻ろうとしたところ、今度はシュッパさんに声をかけられた。なんだろう。
「……あの人、どこの人?」
「あの人……ですか?」
「そう!そうです!先程のお嬢様は、どちらの方なのでしょうか!」
ブレイドさんも、それを聞きたかったらしい。先程のお嬢様……お嬢様というよりかは暗殺者という方が雰囲気はしっくりくるが、恐らくゼロさんのことなのだろう。誰なのかと聞かれたら割と詳しく語れるが、あれこれ勝手に説明してしまうのも本人に嫌がられるんじゃないだろうか。ここは無難に流しておこう。
「ゼロさんは密偵をしていた人で、旅の途中で知り合ったんです」
「……む。そうか」
「……?」
「いや、いい。すまない。中へ戻ってくれ」
……ゼロさんはセントリアルに来たことがあると言っていたし、その時にシュッパさん達に見られていたのだろうか。いや、あの姿になってからゼロさんがセントリアルに来たのは初めてだろうし……なんだか釈然としない会話を済ませると、俺は言われた通り控室へと戻った。
試合会場の方では大きな工事音が鳴っており、穴ぼこだらけ汚れだらけになったステージを全力でキレイにしていると思われる。まだ決勝までは時間がありそうなので、なんとなく治療箱を物色し始めた。これ、使っていいって事は、もらってもいいんだよな……。
さすがに完全回復できるパーフェクトの実はないが、鎮痛剤っぽい錠剤がある。意外と美味い。料理は食べる気にならないが、こういうお菓子感覚で食べられるものならいける。そんなことを考えながら次々と口へ放り込んでいたところ、注意書きに副作用の欄があるのを発見した。
『副作用・語尾に「ぜ」がつく』
なんだこの副作用……。
「トキメイ選手、決勝戦の準備が整いました。入場の用意を願います」
意外と早く修繕が終わったようで、係員の人が俺を呼んでいる。俺は言われた通り、舞台へと上がる階段の元へ向かった。
「では、合図が聞こえ次第、階段上へ移動を願います」
「解りましたぜ」
「……やる気ですね」
「そんな事ないですぜ……」
第62話の4へ続く