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第62話の2『がんばった』

 「今は控室にいた方がいい」

 「そうですね……」

 シュッパさんと一緒に控室へと戻り、大人しく座って試合の時を待つことにした。すでにキメラのツーさんは控室からいなくなっており、こっそりとゼロさんたちのところへ戻ったとみられる。部屋には誰もいない。試合が終わって安心したのもあって、ものすごい暇な具合で眠い。

 そういや試合のあと、グロウはどうなったのだろうか。というか以前、鳥の姿のグロウと会ってから一カ月も経ってないのに、あの変わりようは何があったというのだ……修行したにしても変貌しすぎだろう。多分、ヤチャと同じ控室にいたであろうに、お互いに姿が違い過ぎて気がつかなかったのだと思われる。

 「……君、面会いい?」

 「あ……はい」

 シュッパさんに呼ばれて控室を出ると、ブレイドさんに案内された様子でゼロさんが来てくれていた。ゼロさんの挙動は観客席で会った時より幾分か落ち着いていて、準決勝の試合が無事に終わったことで心配が晴れたのだろうと考えられる。まぁ、あとは身内試合を適当に終わらせればオーブが返ってくるのだから、俺としてもゼロさんと同じ気持ちである。

 「トキメイ殿。ならびに面会の方へご注意を申し上げます。万が一、不正が行われる危険性を踏まえ、係員の立ち合いの元、面会とさせていただきます故。悪しからず」

 「あ……はい。理解しました」

 ブレイドさんは運が良ければ出し抜けそうだが、シュッパさんは今だ実力が未知数な人なので、この人の前で不正を働く自信はない。ひとまず、俺はゼロさんの声を待つ形で会話を始めた。

 「……勇者。ケガはないか?」

 「なんとか大丈夫です。ルルルと仙人と、セガールさんはヤチャのところに行ったんですか?」

 「ああ。セガールは席を取ってくれている」

 「そうですか。あの……えっと、その……アレ。試合のあと、来ました?」

 「……?」

 キメラのツーさんについて聞きたかったのだが、具体的に言うとブレイドさんたちにバレそうだから濁してみた。数秒だけ考え込んだ末、ゼロさんは俺の言いたい事を理解してくれた。

 「……あぁ。精霊様が側溝から発見した」

 「よく見つけましたね……そんな場所から」

 ゼロさんは言葉こそ少ないが、こういうことには気づいてくれるから非常に助かる。そういった察知能力に関しては、元からあった隠密スキル由来のものなのかもしれない。そんなことを考えていると、ゼロさんはなんの気ない口調で俺に尋ねた。

 「勇者。何かしてほしいことはあるか?」

 「え……」

 ああ。『何かしてほしいことはあるか』とは、きっと食べ物を用意してくれるとか、体調不良のケアは必要ないかとか、そういう意味なんだとは思うが……女の人に言われると、ちょっとドキドキするセリフである。ただ、残念ながら大してケガもしてないし、食欲に至っては普段以上にない。

 俺が強気なキャラならば、ほっぺにキスでもお願いしたい気持ちなのだけど……それを人前で言う度胸はない。でも、せめて何かしてくれるというのなら、せっかくなので……勇気を出してお願いしてみた。

 「俺、準決勝、頑張ったので……」

 「……どうした?」

 「あの、褒めてほしいんですが……ダメですか?」

 「……ん?」

 「あ……いえ、無理にとはいいませんが……」

 「……いや、問題ないが」

 「……」

 「勇者は頑張ったな。ああ」

 「……」

 「……?」

 変な沈黙が訪れてしまう。あちらはあちらで疑問符を浮かべているし、俺は俺で微妙に緊張して声が出ずに間を逃してしまった。なんか、もう一言くらいくれるのではないかと期待したのだが、両手拳をにぎったポーズのまま、ゼロさんはフリーズしてしまっている。あ……これは。

 「……」

 「……?」

 「……」

 「……あの……面会、終了でよろしいですか?」

 あまりに俺たちがぎこちなくて、ブレイドさんに気をつかっていただいた……やっぱり、慣れない人に無茶振りしたらダメだな。


                                第62話の3へ続く


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