第62話の1『休み時間』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。四天王から奪ったオーブを取り返すべく武闘会にシード枠で出場し、運よく準決勝で生きながらえホッとしているのだ。
***
「ちょっといい?」
「え?あ……はい!」
不意にシュッパさんが扉を開けた為、俺はキメラのツーさんを隠す形で座り直した。どことなく都合の悪そうな口調で、シュッパさんが俺に説明を始める。
「先程の試合……審議中だ」
「審議……ですか?」
「理由は、まだ聞いてないが」
なんだろう……まさか、体内に生き物を入れていたのがバレたのだろうか?それか、キメラのツーさんの魔力から魔物の反応を感知されたのか。でも、するとグロウだって魔物なわけだし、だからといって両者とも失格となれば……いや、それはそれで決勝戦を自然と辞退できて好都合ではある。
「シュッパさぁん!審議の内容が明らかになりましたぁ!なんか、勇者にしては必殺技の攻撃が、まがまがし過ぎんじゃないかってぇ!」
「む。やぶさかではない」
バンッと勢いよく扉を開き、ブレイドさんと同じ色の制服を着た男の人が報告に来た。まがまがし過ぎんじゃないかって、ただの主観じゃないですか……などと考えていたら、また別の隊員さんが入ってきた。
「シュッパ先輩!反対意見として、グロウ選手の攻撃も結構ダークなんじゃないかと物議をかもしておりまし!」
「む」
「シュッパたいちょお!どちらにせよ、グロウ選手は意識が戻っていないので、トキメイ選手に出てもらった方がいいんでないかと提案が!」
「むむ」
「シュッパさぁん!」
「むむむ」
「隊長!報告ですぅ!それじゃあ、やっぱりトキメイ選手の勝ちでいいじゃんってことになりましたですぅ!」
次々と隊員さん達がなだれ込んできて、会議の内容がリアルタイムに伝えられた。ふと隊員さん達は俺の方を見つめると、サッと全員で敬礼して見せたのちにシュッパさんが短く結論を述べた。
「君。なんともなかった!」
「そうですか!ありがとうございますッ!」
なんだったのだ、今の一連は……という感じは否めないが、とにかく問題はなかったらしい。みなさんは安堵の表情で控室から去り、俺も後ろにキメラのツーさんをかばったまま、一安心の溜息をついた。
それにしても、これだけ観客が集まっている中、決勝は仲間同士だから片方が棄権しました……とは、さすがに言えないな。普通に試合を行ったふりをして、円満に大会を終了させる必要があると考え、俺はヤチャがいる方の控室へ向かう事にした。
階段を上がり、長い廊下を通り、観客席がある通路へ出る。ふと観衆の方々と目があうと、数秒後には大喝采に包まれた。
「あれ!準決勝の人だ!」
「見た目の割に強い!」
「サインを書いて!」
「握手したい!握手だよ握手!」
たちまち人だかりとなってしまい、もはやヤチャがいる控室に行ける状態ではなくなってしまった。永遠に続くかとも思われた民衆への対応だったが、なんとかシュッパさんが強引に俺を回収してくれた。ブレイドさんも助けに来てくれた気はするが、どこか人混みに流されていったのを見た……。
第62話の2へ続く