第61話の3『猛撃』
『1・背を反らす 2・右へ走る 3・左へ走る』
世界が時間を止め、俺の目の前にメッセージウィンドウが表示される。そこには攻撃を避けられそうな選択肢が用意されていて、すぐに俺は攻略へむけての推理を開始した。
正面には刀を持ったグロウが駆けこんできており、あと10秒もすれば俺に切っ先が届くと考えられる。しかし、それにしても選択肢が出るのが早すぎるんじゃないだろうか?落ち着け、俺。今までの選択肢だって理不尽に見えて、解りにくいなりにヒントはあったんだ。今回も何か、それなりに伏線的なものがあると考えよう。
『壱番刀・群青おろしッ!』
……思い返せば、さっきグロウは刀の名前を口にしていたな。今、グロウが手にしているのは黒い刀だ。他にも、金色の刀と、緑がかった刀が風で宙に舞っているのが見える。じゃあ、群青色の刀はどこにいった?
現在、世界の時間は止まっているため、俺は体を動かせず刀の所在は確認できない……が、この短時間で刀が背後に回り込んだとは思えないし、見えないということは刀は俺の横にある。かつ、刀は浮いているから上方から来ると見て間違いない。選択肢の中で唯一、右上と左上からの攻撃に対応できるのは……。
『1・上半身を後ろへそらす!』
時間が動き出す!ちょっと大げさにも、俺は後ろへ下がりつつ背をそらした!そんな俺の鼻先をかするようにして、右側から振り下ろされた刀が空を切った。その刀身は他の物よりも少しばかり長そうであり、左へ走っても右へ走っても斬撃からは逃れられなかった気がする。
『1・見上げる 2・足踏みする 3・手を上げる』
……ッ!?間髪いれずに、再び世界は時間を止めた!今回はグロウの声もなく、どの刀が襲って来るかすら解らない。俺の視界には上方へ向いていて、それぞれ右前方と左前方に刀が浮いている。その、どちらかが斬りかかってのだろうか?ダメだ。解らない。
冷静になれ。ヒントがないなら、選択肢から読み解くんだ。右側にある一本の刀は先端を俺に向けていて、もう片方の左側にある刀は横振りの型だ。横振りの刀は俺に近くて、今から手足を動かす余裕はない。だったら、ここは……。
『1・見上げる!』
背を弓のように曲げたまま、更に俺は首を上げて真上を見る。首元に風が当たり、鋭い刃が通り過ぎたのを感じる。歯を食いしばり、まだ生きているの事を実感した。
「勇者ァ!九番刀・灰火禅をかわしたな!見事!次、拾番刀・白葉偃月!」
『1・右腕を上げる 2・腰を右にねじる 3・後ろに転ぶ 4・体勢を立て直す』
またか!あまりに立て続けで、疲労感と共に意識も薄れてきた。それに加えて、選択肢も先程より一つ増えていて、微妙に難易度が上がっている。確か……グロウは十刀流虹色朱雀とか言っていたな。これが10回も続いたら、以前と同様にペンダントが力を使い果たすに違いない。このままではジリ貧だ。段々、止められる時間も減っていくだろう。
『1・1・2・1・3・3・1・5・6・8。君なら、おぼえられたね?』
……その時、『10回』という言葉と共に、ふと記憶の片隅から一つのセリフが呼び起こされた。これは……トチューの町で会った、馬の面をかぶった人が俺に言った謎のセリフだ。
最初の二つの数字は今のところ、クリアした選択肢と一致している。数字の数も10個。偶然である可能性は無きにしも非ずだが、もう他に信じられる材料がない。目の前でカウントダウンは始まっている!すぐにでも時間が動き出す!
……馬の被り物をした彼は知らない人だったけれど、話してみたら不思議と親近感があった。彼にとって、俺は信じていい人だったのだろうか。ならば、俺にとっても、きっと同じだ。どちらにせよ、もう考える余裕はない。俺は覚悟を決めた!
『2・腰を右にねじる!』
第61話の4へ続く