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第61話の1『風魔法』

 《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。勇者捜索を理由に開催された武闘会へシード枠で出場したのだが、準決勝の対戦相手が俺俺詐欺の如く挨拶してきて、その人が誰なのか思い出せず微妙に都合が悪くなっている。

 

                     ***


 「俺は……あぁ!姿が違うから解らんか!そりゃあ、違いない!」

 「……?」

 『山サイドは今大会、二試合ともノーダメージで通過したグロウ選手!その刀さばき、今回は披露なるか!?』

 グロウ……あっ!あー!無の境界の橋を渡った時に出てきた、あの大きなカラスか!ただ、今は人間に近い姿になっている為、声は聞いた事があるとは思ったが全く同一人物とは気づかなかった。グロウは何か思い出すようにして、ぽつりぽつりと何か話し始めた。

 「オレァな。勇者に負けたぜ。あの日から……生きた心地がしなかった。強くなるために魔力を強化し、武器の扱いも心得た。この姿も、その賜物よ。そう……厳しい修行だったぜぇ」

 勝負の前の回想は負けフラグなのでやってもらって構わないのだけど、セリフにあわせてヒュンヒュンと振っている刀の切っ先が鋭くて非常に怖い。魔物が平然と大会に出ている事にも驚きだが、勝負への意気込みからして魔王がらみではないようである。

 『グロウ選手、先程からトキメイ選手を勇者と呼んでいるが、じゃあ君は勇者じゃないのかい?』

 「勇者なわけあるか!あいつが勇者だ!」

 『すると、勇者決定戦を辞退するー?』

 「なわけあるか!だったら、オレァ勇者だぜ!」

 司会者と何やら言い争いをしているが、今のうちに俺は自分の身の回りをうかがってみる。ヤチャが空けたと思しき穴ぼこがステージの至る所にあり、割れたステージの残骸が石ころのように転がっている。オモチ選手の負け方を見た限り、グロウが風使いとタカをくくって考えた限り、相手の初手は……。

 『トキメイ選手!準備はいいかな?』

 「えっと……うん」

 『では、行くぞー!準決勝2試合目!ゴー!ファイ!』

 司会者の合図と共に、グロウが俺の方へと手を向けた。

 「一撃で仕留める!魔旋流波・青嵐!」

 そよ風が立ち、それらが俺のいる方向へと流れ始めたのを感じる。そこから風速は急速に勢いをつけ、巨大扇風機でも起動させたかのように風が吹きつけてくる。やっぱり、そう来たか!俺は素早く、ステージにあいている穴へと飛び込んだ!俺の頭上を黒い風が通過し、瓦礫の粒がピストルの弾のように穴の上を通り過ぎていく。

 ステージの破片が少しだけかすり、俺が着ている服の肩の部分が僅かに切れている。直接、体で受けていたら危なかったな。などと考えていたら、黒い風が方向を変え、穴の中にいる俺の方へと飛び込んでくる。やばい!とにかく、今は逃げねば!俺は穴から飛び出して、グロウのいない方へと走り出した。

 先程まで俺がいた穴は風にえぐられ、窪みはガリガリと変形している。他の穴に飛び込んでも、また同じことの繰り返しだし……へたにグロウに近づいてしまうと、刀による攻撃を受けるだろう。どうすればいい?他に利用できるものはないか?どうすれば……俺はステージ上に留まっていた司会者の後ろに隠れ込んだ。

 『お……おぉ?おあああぁぁぁ!』

 魔法の風はズババババという音を立てながらも、司会者の持っている盾ではねのけられた。でも風の威力はすさまじかったようで、司会者さんの持つ盾はかじられたクッキーみたいになっている。攻撃が止んだところで、司会者さんは俺の方へと向き直った。

 『あの……トキメイ選手?』

 「はい」

 『司会者を盾にしないように……』

 「でも、ルール規定には書いてなかった……」

 『でもじゃないのっ!』

 「……はい」

 怒られてしまった……まあ、完全に俺が悪いからして致し方ない。

 『グロウ選手も、審判を攻撃しないようにっ!』

 「だが、今のは」

 『だがじゃないのっ』

 「……はい」

 グロウ。全く悪くないのに素直だな……。

 

                                第61話の2へ続く


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