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第15話『海原(ポロリはないです…)』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。勇者として旅に出た俺は魔王四天王の一角であるワルダーの持つ赤いオーブを手に入れたものの、今は見渡す限りの広い海に浮かんでいる。

 


 実のところ、海という場所へ来たのは初めてなのだが、いざ訪れてみると想像以上に圧巻の水量である。潮の香りは鼻孔を通って、脳に直接、寂しさやら懐かしさやらを訴えてくれる。生き方に悩んだ時、感傷にふけりたい時、みんなが海に行きたがるのも理解できる。


 しかしだ。海辺で語り合うのも、砂浜で追いかけっこするのも定番と呼べるだろうが、こんな球状の物体に乗って漂流してしまう人は滅多にいないだろう。アニメ作品ならば、この辺りで水着のお披露目回があるのもいい。だが、その見込みも俺には無い。


 「あの、仙人。これ……もう飛べないんですか?」

 「ヒヒフ。ミヒヒヒホ」

 「ダメですか……」


 仙人が何を言っているのかは謎ミステリーなのだが、ニュアンスで半ば理解できるようになってきた。乗り物を飛ばす事はできないらしいけど、その問題が乗り物側にあるのか、仙人の頭側にあるのかは不明を貫く。


 「……ん?」


 手持無沙汰にペンダントを触ってみると、ワルダーの城で触った時に感じた冷たさは消えている。壊れてた……もしくは、力を使いすぎるとパワー切れになるのだろうか。なにはともあれ、こいつを持ってガンガン殴打するのは今後、ひかえていきたい所存。


 「……う~ん」


 これから、どうしよう。乗り物は海の真ん中に浮かんでいて、遠い景色にも島らしきものは見当たらない。ヤチャがいれば乗り物ごと運んでもらうくらいは朝飯前やもしれんけど、そんな頼りになる彼だけが姿をくらましている最中である。俺と仙人、マントの人と精霊様は何をしていいのか解らず、遠くを見つめながら体育座りをしている。


 そういえば……前回、仙人と関係のありそうな人物が出てきたな。ブシャマシャって言ったっけ。


 (聞いてくれるか?)


 「……え?」


 (ブシャマシャは、わしのライバルであり、同じ門下生として大切な仲間であった。パワーアップの塔を守護する命を受けるべく、日々の鍛錬に臨んでいたのじゃ)


 そこのところ聞いといた方がいいかなとは思っていたけど、まさか自分から語ってくれるとは。それにしても、テレパシーの声より何より、頭に血管を浮かび上がらせながら念を送る仙人の形相が気になって、微妙に話が耳に入ってこない。


 (だというのに、だというのにヤツめ……ふうっ……だというのに!ふうっ!)

 「解りました……いえ、無理しないでください」


 聞いてくれるかと言われた手前、最後まで事情を聞くスタンスではいたのだが、念を通して息切れが伝わってくるのが辛すぎる。息も絶え絶えの仙人は乗り物の中へと安置した。


 「……そうだ。空を飛ぶ機能があるんだから、他にもオプションがあるかもしれない」

 「あたちは風さえあれば、飛んで帰れるから探しとうない」

 「その場合、救助は呼んでいただけるのでしょうか」

 「おぼえていたら呼ぶんよ」


 いざという時は手伝ってくれるが、その辺り精霊様には期待できそうにない。というか、精霊様と仙人は俺たちの旅仲間なのか。そして、ちゃんとヤチャは物語に復帰するのか。マントの人はヒロインのポジションに収まっているのか。あやふやなパーティ構成である。


 「手伝おう」

 「ありがとうございます。それでは」


 手伝いを名乗り出てくれたマントの人に感謝しつつ、足元に気をつけながら船内へ。薄暗くなっている乗り物の内は相変わらずの無機質な空間で、衰弱した顔で寝転んでいる仙人と、空を飛ぶ時に使ったクボミくらいしか目につかない。手あたり次第、床に指をはわせて仕掛けを探してみる。


 「勇者。これは」

 「どうしました?」


 マントの人が指さした場所には持ち上げられるフタのようなものがあり、その中には緑色のボタンがあった。赤色だったら自爆スイッチの可能性も疑うが、緑色のボタンで自爆はないだろうと見て、俺は押してみたいと挙手。


 「俺が押してみます。万が一にそなえて、外に避難していただいて結構ですが……」

 「これは、安全だろう。直感だが」

 「俺も、そう思います」


 よくよく見ると、盾のようなマークがボタンに描かれていた為、俺は安易な気持ちでボタンを押した。


 「勇者!一瞬、ピカしたぞ!何をしたんよ!」

 「……ん?」


 外で精霊様が何か言っている。外でピカピカしたらしいが、内部からでは何が起きたのか解らなかったから、俺はボタンを連打してみた。


 「勇者!また乗り物がピカピカしているんよ!何をした!」

 「……これはバリアだろうか」

 「そうでしょうね」


 多分、バリアだ。だが、押した一瞬しか効果が発揮されないとの見解につき、この機能に俺はジャストガードと名付けた。


 「他に何かないかな」

 「勇者、楽しそうだな」


 やることが他にないというポジティブでない理由ながら、何が見つかるか解らないトレジャーハントの楽しみを見出した。おっ!こっちにもフタがあるぞ!開けてみよう。


 「……お金だ」

 「ひゃ?ホリャハ!ハヒフヘ!」


 仙人様のへそくりを見つけてしまった。戻しておこう。


 「おうい!外に何か見えたんよ!」

 「本当ですか!?」


 見張りをしてくれている精霊様の声を受け、俺たちは再び乗り物の外へ出る。水平線に重なる形で、小島か船のようなものが浮かんでいる。よかった!船なら乗せてもらえるかもしれないし、島なら島で陸地を踏めるから気持ち安心できる。


 「恐縮ですが精霊様、魔法で乗り物をあれに近づけられないでしょうか?」

 「しょうがないのう」


 そよ風が頬の傍を吹き抜け、ゆっくりと乗り物は移動を開始した。今までの傾向からして、精霊様は風の精霊なのかもしれない。他にも、炎の精霊とか水の精霊とかがいるのだろうか。


 「精霊様の他にも、精霊はいるんですか?」

 「あ……あたちは孤高の精霊じゃから、他のとは慣れ合わないんよ」


 友達がいないんじゃないかと心配になり、それ以上は聞けない……俺でよければ仲良くしてあげよう。そうこうしている内にも、向こう側に浮いているものは近づきつつあり、何か壊れかけの船のようなものであることが目視でも確認できた。乗務員のような人影もうかがえた為、俺は大きく手を振ってアピールしてみる。


 「おーうぃ!助けてくださぁい!」


 あちらも俺たちに気づいたようで、身振り手振りを返してくれる。そんな俺の声を聞き、仙人が乗り物からよじ出てくる。


 「ハファファファファファ?」

 「船らしきが確認されたので、接触を図ります」

 「トウバンジャン……」


 謎の浮遊物体は近づくにつれて輪郭をはっきりとさせ、それが船でないと俺は途中で勘づいた。かといって、金属の質感からして生き物ではないし、アーマーのようなものを着た人が何人か乗っている。よく分からない物体の正体は判明されぬまま、俺たちが乗っている乗り物にガツンと当たって止まった。乗り物っぽい物の上に乗っている男が、俺たちを指さし高圧的に告げる。


 「墜落してしまったのだ!我らが魔王軍!物資を明け渡せ!」

 「むむ……オシャア!フシャシャ!」

 「な……お前、センニーン!」


 灰色の大男が海賊まがいの発言をし、それによって奴らが俺たちを襲ってきた魔王軍であると解ったついで、仙人の本名が明らかとなった。ここからはセンニーンさんとブシャマシャさんの回想が始まる模様。


 (忘れんぞ!ブシャマシャが裏切りを働いた、その時のことを!)


 「お前、テレパシーで……ッ!?」


 (あれは30歳の時、パワーアップの塔の後継者を決める儀式でのこと。後継者となった一人は役目を終えるまで塔から離れられないと知らされたのだじゃ。その時、東の街に住むマーニャさんに恋していた私に対して、ブシャマシャが言ったことをおぼえているのか!)


 「忘れたなぁ!そして、後悔もねぇ!」 


 (『俺は儀式でグーを出す。お前はマーニャちゃんのところに行け』。試練の前夜、ブシャマシャは私に言った!結果、やつは……チョキを出したのだじゃ。ふぅ……ふぅ……)


 後継者を決める儀式の中で、そんなエピソードがあったとは。なにやらジャンケン的なワードが出てきた気はするが、あまんじて突っ込まない。


 (魔王軍に落ちぶれるとは、我が道場の面汚し!この場で粛正だじゃ!ふぅ……)


 「髪だけでなく歯まで失い、魔法の詠唱も叶わないセンニーンなど敵ではないわ。よろしい!どちらが一番弟子であったか、この機会に決定打をつけてやる!」


 地上へ生還できるかも定かでない状態で、まさかのライバル対決が始まってしまった。相手のポテンシャルが解らないとはいえ、魔法の使えないセンニーンさんが不利であることは解り切っている。でも、この勝負に水を差すのは野暮であるからして、俺は戦いの行方を静かに……。


 (ジャーン!)

 「ケーン!」

 「ジャンケンじゃないですか!?」


 静かに戦いを見届けようとしたものの、自然と腹から声が出てしまった。


 (いかにも。流派ジャン拳は物理のグー、変化のチョキ、放出のパーを基礎とする念術)


 「それぞれが3すくみの関係を持ち、力で制するのではなく敵の裏をつく反撃の拳。アイコでの防御と、弱点への一撃必殺を併せ持つ、剛柔な武闘術なりぃ!」


 「や……やっぱり、そうですよね!聞いた事はあります!」


 ちゃんと勝負はしようとしてた為、なんだか俺の方が滑ったみたいになりそうな気がして、思わず知ってる風に便乗をしてしまった。色々な技があるものだな。


 (じゃーん!)

 「けーん!」

 「……ややっ!ブシャマシャ様!あれを!」

 「む……?」


 今度ははブシャマシャさんの手下みたいな人が横やりを入れてきて、必死な形相で海を指さしている。そこには何か、金色に輝くものが泳いでいて、水から頭半分だけをのぞかせている。


 「魔王軍、みぃつけたぁ!ふはははは……」

 「ば……化け物だぁ!皆の者、飛行船の中に避難しろぉ!」


 あれは……ヤチャだ。どこにいったのかと思っていたら、魔王軍を探して海の中にいたらしい。これには勝負も中断となり、魔王軍の一行は海に浮かんでいる飛行船の中へと我先に入っていく。


 「助けてくれれええ!ひいいいぃ!」

 「おおおおっぉぉ!岩石とばしいいいぃぃぃ!」


 ヤチャの一殴りを受け、魔王軍の飛行船はアウェーの海からホームである空へと消えていった。そのまま宇宙の彼方まで飛ばされていたら、仙人とブシャマシャさんのライバル対決は二度と実現しないと思われる。


 なにはともあれ、ヤチャも見つかったことだし、この漂流の旅も終わりに出来そうだ。早速、ヤチャへ事情を説明してみる。


 「ヤチャ。無理な相談かもしれないけど、これを陸地まで運んでくれないか?」

 「おおおおぉぉぉ!」


 できる……ということでOKだろうか。ただ、見当違いな場所に運んでもらうと目的地から遠のいてしまうし、レジスタの街がある方向も聞いておかないと。


 「ここから、街の場所は解りますか?」

 「……あれだ」

 「……んん?」


 マントの人の指が空を示し、太陽を遮りつつも仰ぎ見てみる。空の色に紛れて、巨大なものが空に浮かんでいる。あれがレジスタの街なのか。


 「テルヤァ……中にいろぉ」

 「……そっか。落ちると危ないしな」


 ヤチャの気遣いに従って、俺たちは乗り物の内部へと移動する。このまま、乗り物が動き出すのを待って……いると、外からヤチャの声がした。


 「岩石いいぃぃぃ!」

 「……しまった!ヤチャ!待った!」

 「とばしいいいいぃぃぃ!」


 運んでほしいとは言ったが、運び方を伝えていなかった!魔王軍が空へ消えたのと同じ要領で、俺たちが入っている乗り物もはじき出される! 中にいる俺は凄いグラヴィティに襲われている!


 「うわあああぁぁぁああ!」

 「勇者。このままでは、レジスタの街の下側へぶつかるぞ」

 「こら、勇者!なんとするんよ!」

 (勇者よ!私は疲れた。任せたのだじゃ)


 こんな時ばかり、神頼みならぬ勇者頼みである。みんなの期待を一身に受けた俺は……一瞬しか効果のなさそうなバリアっぽいボタンをただ、泣きながら連打する他なかった。


                                   

第16話に続く

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