第59話の5『魔力』
「魔法を教えろと言っても、どうしたらいいか解んないんよ」
「だけど、他に使える人がいないから頼める人がいないじゃんもん……」
逃げるルルルを宿屋の片隅に追いつめたのだが、やはり教えようにも教え方が解らないらしい。じゃあ、しょうがないから朝ご飯でも食べてから考えようと気持ちを切り替えた。
部屋にある財布などを持って食堂へ戻ると、仙人とセガールさんが先に食事を始めていた。傍目に見ると孫とお爺ちゃんに見えるのだが、セガールさんが無駄に妖艶なので見方によっては詐欺の現場ともうかがえる。
「仙人とセガールさんは何を食べてるんですか?」
「ん?ユートピアライスゥ」
餡かけチャーハンみたいな見た目からの、なんか微妙に不安感のある料理名がセガールさんの口から出た。それを避けて無難な料理を頼むべくして、俺は『今日のおすすめ』をお願いしたのだが……出てきたのはユートピアライスであった。
「お兄ちゃん。なに食べてるのん?」
「ユートピアライス……」
「ユートピアライスて……」
とか言ってるのに、ルルルもゼロさんもキメラのツーさんも『今日のおすすめ』を頼んだばかりにユートピアライスを食べることとなった。味は……レトルトカレーっぽいな。レトルトカレーと自作カレーの味って、割と別物だよなぁ……などと考えていたら、シェフが紅茶のような飲み物を持ってきてくれた。
「『今日のおすすめ』はチャーがサービスでつく」
「ありがとうございます……そうだ。この街で、魔法の使える人って知らないですか?」
「……なんで?」
「武闘会に出るには、魔力がないとダメらしくて」
「あのマッチョの人、魔法ないの?」
「いえ……出るのは俺です」
「え……え?や、やめておいた方がいいぞ。ダメダメ。ケガしちゃう」
この細いなりでで魔法も使えないと知れた為、当たり前のようにシェフに引き留められた。ただ、他に方法も今は思いつかないし、情報収集がてら街にでも出てみるかと予定を立てる。したら、ふと視線を感じて俺はルルルの腕についているキメラのツーさんを見つめた。
「……どうしました?」
『飲むもの!飲むもの!』
あぁ。チャーが欲しかったのか。随分とお気に召したのか、キメラのツーさんはみんなの分のチャーを飲み干していて、ついでに俺のも欲しいと言っている。しかし、どうやって飲むんだろう。観察してみた。
キメラのツーさんは円盤のようなカプセルに入っていて、それをルルルがコップの上に乗せる。すると、謎の吸引力で飲み物が円盤の中に吸い取られていくのだ。明らかにキメラのツーさんより水分の方が体積は大きそうなのだが、どうやってか全て体に収まってしまう。
「なんか面白いですね」
『だたら、もっとくれくれ』
「……そういえば、キメラのツーさんって、魔力はあるんですか?」
『ママ……マホウないけど、マリョクある!マモノいたらワカル!』
「魔法は練習して体に馴染ませないといかんが、魔力だけなら魔物だからあるんよ」
そうか。ルルルの説明を聞く限り、魔力があれば必ず魔法が使える訳じゃないんだな。おそらく、キメラのツーさんは自分と同じ波長の魔力を感知して、四天王や魔物の存在を探しているんだろう。だとすると……。
「……」
第60話へ続く






