第59話の1『来訪』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。赤のオーブ、青のオーブを手に入れたのだが強盗に奪われ、それをなぜか武闘大会の優勝景品にされたからして、これには俺も参加せざるを得ない……。
***
夜が明けた。さて、今日はみんなで観光にでも……といきたいところなのだが、早急にペンダントを返してもらわないといけない訳で、俺はバトルマスターズとかいう城の上層部へと直談判する意思をかためている。
「……ちょっといい?」
俺が適当に髪型などをなおしていると、部屋のドアをノックする音がして、ドア越しに宿屋の御主人の優しい声が聞こえた。ドアを開いてみたところ、そこには宿屋のご主人と……深く帽子を被った隊員さんがいた。この人は確か、街に到着した時にアマラさんから事件の処理を任せられた人だった記憶である。
「トキメイ殿、センニーン殿、ニ・セガール殿、この度の強盗事件、その遭遇により負われた心身へおける被害につきましては、ここにお詫びを申し上げます。我が防衛機構は今後とも平和主義の精神を重んじ、より一層の防衛活動へ尽力することを約束いたします」
「いえ、お詫びは犯人にしていただきたくて妥当かと……」
「ワタクシ共が警戒を怠ったが故に発生した事件と認識しております。ささやかながらの謝意を込めて粗品をお持ちいたしました。お納めください」
そう言うと、なにやらお菓子が入った良い感じの箱をくれた。それはいいとして、ご挨拶をする為だけに、わざわざ来てくれただけとは思えないのだが……何か他に用事があるのではないだろうか。
「今回は、どういった御用ですか?」
「はっ!ワタクシ、ブレイドが参りました要件としましては、お三方に記入していただいた被害届と物品の照合が終了いたししました為、返却させていただく次第でございます」
「おぉ!そうでしたか!ありがとうございます!」
こちらから出向こうとしていた矢先、あちらから持って来てくれるとは親切の極み。どうやら、俺の他に仙人も被害届を出してくれたらしい。オーブについては返却されないと考えても、それ以外が無事に戻ってくるだけでありがたい。という訳で、俺と仙人とセガールさんは食堂の席にて、返却される品についてのお話をブレイドさんと始めた。
「まずは、センニーン殿。ガマグチかつ焦げ茶色、唐草模様の財布を返却いたします」
(おぉ。これです……わしのです)
特徴的なデザインの財布を差し出され、仙人は重さを確かめるようにして手に取った。俺も硬貨を幾らか盗られたのだが、むき出しのお金を被害届に書いたところで返ってくるかは定かでない。ひとまず、金銭面での問題は解決したので、アマラさんからもらったお小遣いは全て返済しよう。
「ブレイドさん。これ、アマラさんに返してもらえますか?」
「承りました」
「あちしのは?」
「ピンクの財布と、黒革の手帳、旅行バッグでございます」
「あら、ありがと~」
バッグを盗られてなお変装は出来たという事は、色々なものが服に仕込んであると思われる。予備のカツラをどこにしまっているのか、はなはだ疑問だ……。
「ところで、セガール殿。そちらの手帳、ニセの勇者様が所持していたものに酷似しているとお見受けしますが……」
「よくあるデザインよね」
「左様ででございますか。それでは、トキメイ殿。こちら、奪われた額の硬貨でございます」
「あ、ありがとうございます」
まさか、ちゃんと硬貨だけでも返ってくるとは思わなかった。小まめに書いてみるものだ。これは、ペンダントも期待できるかもしれない。そう考え、俺はブレイドさんを力強く見つめた。
「押収品の返却は取り急ぎ、以上となります」
……おや?
第59話の2へ続く