第58話の6『本題』
「それで、あだたは男部屋まで何をしに来たの?」
寝る時まで女装しているセガールさんが言うと男部屋感が薄れるが、確かにヤチャの回想のせいで本題をおろそかにした節はある。そこで改めて、ゼロさんの要件について聞こうと思う。
「……思うに、勇者は武闘会には出たくないのだろう」
「そうですねぇ……できれば」
「……そうか」
ゼロさんは部屋の様子を見まわした後、一つ間をおいて小さな声で申し出た。
「……オーブとペンダントを、私ならば盗み出して来られる自信がある」
「……え?」
あの複雑怪奇な城の中を案内された後だったので、その発想は俺には全く浮かばなかった。ゼロさんが言うのならば成功率は高いのだと思われるが……それはともかく、ここで返す言葉に選択肢はいらないだろう。
「……ゼロさんに泥棒みたいな真似はさせられませんよ」
「しかし、元はといえば勇者の持ち物なのだが」
「それは大会で証明してみせますよ。俺か……もしくはヤチャが」
「……では、私も武闘会に出る」
以前、海の上で俺の戦力的な素性を明かしたからか、ゼロさんは俺が戦わなくてもいいよう努めてくれているのだろう。ここもキッパリ、『俺に任せろ』と言いたかったものの、あまり突っぱねてしまうのも申し訳なかった為、ゼロさんの強さを見込んでお願いしてしまう。
「じゃあ、無理はしない程度によろしくお願いします……」
「わかった」
「……あの……言いにくいんだけど……多分、女の子は出られないわよ」
「……?」
頑張りポーズをしているゼロさんの手前、セガールさんが微妙に引きつった笑顔で何か言い出した。あなた、また何かしたんですか?
「あちし、勇者について情報収集してたのよ。で、勇者の文献みたいなのを見つけたから、あちしが勇者だって信憑性を上げるためにセントリアルの上層部に見せたんだけど……勇者って、男しかなれないらしいのよ」
「……その文献、見せてもらっていいですか?」
「……ちょっと高価なバインダーに入れてたから、強盗に盗られて今はない」
との事なので……結局、ゼロさんの厚意による提案は全て却下となり、不完全燃焼の様子でゼロさんは腰を上げた。
「何もできそうになくてすまない……」
「いえ……」
そのまま、ゼロさんは部屋を出ていこうとするのだが、ここは何も言わずに見送っていいのだろうか?そんなおもんばかりの末、ドアを開いたゼロさんに俺は一言だけ声をかけた。
「……お茶とか飲みにでも行きます?」
「……いや、もう精霊様を抱いて今日は眠る」
ああ。勇気を出しての誘い文句だったが、残念ながらルルルの抱き心地に負けてしまった……。
第59話へ続く