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第58話の4『過去』

 かしこまってゼロさんが床に正座しており、それにならって仙人とヤチャも正座している。俺も正座した方がいいのかとも思ったが、ちょっとスペース的に厳しいのでベッドに座り込んでいる。いや、何か怒られるかもしれないから、やっぱり俺も正座しておいた。

 とはいえ、ゼロさんに叱られるようなことはした覚えがないし、だがゼロさんの表情といえばほとんどないに等しい訳で、どのような要件での来室なのか見当もつかない。そんな状況の中、ゼロさんは探り探りの様子で声を出した。

 「……私は思うのだが、勇者は実は、武闘会に参加したくないのではないだろうか」

 「それはそうですね……」

 「……なにぃ?」

 徐々に俺のことが解ってきた様子のゼロさんとは別に、ヤチャはキレ気味で俺に聞き返している。多分、ヤチャの中では俺は長き修行を共にした仲間であり、それなりの筋肉とそれなりの武術の心得を持つ人物なのだと思われる。しかしながら……実際のところ、俺はヤチャの知っている俺ではない。

 「だって俺、強いやつと対峙したら死んじゃうんだぜ?」

 「……テルヤァは強い」

 「俺は強くないんだぞ……」

 「昔から……強い……オレサマ、知っている……」

 ゼロさんも無口だが、ヤチャも言葉が少ないから、その気持ちは察する他ない。そんな中、仙人が謎の提案を始めた。

 (……ここで回想するか?)

 「……ん?なんですか?」

 そう言うと、仙人は俺の疑問には応えず、ヤチャの頭の上で座禅を始めた。バランスが悪そうなのは見て明らかだが、それにしても姿勢は安定している。

 (彼は筋肉で喋りにくいのだろう……回想!)

 「……おお」

 次第に部屋全体が薄ぼんやりとした霧に覆われ、もやの中に知らない風景が映り込んだ。これは……思うに、過去の映像である。ヤチャが筋肉で喋り辛かった事実も知らなかったが、こんな能力を仙人が持っていたことも初めて知った。

 『テルヤ!ボクの事は気にするな!』(あれはボクとテルヤが、お師匠様の出した試練のために5400000万ヘーホーの距離をマラソンした日だった)

 以前の小さかった頃のヤチャの声でセリフが聞こえると共に、セルフでナレーションも入って凄く親切である。映像の中ではヤチャがケガをして倒れており、それを俺が手当てしている。

 『バカ野郎!こんなところに置いていけるかよ!』

 『ハァ……ハァ……だって!ボクのせいで、試練に脱落したら……』

 『バカ野郎!』

 俺ってヤチャの中では『バカ野郎』が口癖なのか……などと考えている内にも、映像の中の俺はヤチャをおぶって歩き出した。ヤチャは胴着がボロボロになっていて、どうも何かに襲われたように見える。それを俺が助けて連れて帰っている映像なのだろう。

 『バカ野郎……仲間だろッ!置いていく選択肢はないぜ!目指すはゴールのみだ!』

 『テルヤ……くっ!すまねぇ!まだ残り、5200000万ヘーホーも残ってるのにッ!』

 ホーヘーという単位の長さは解らんが、ほとんど進んでねーじゃねーか。もう、いさぎよくスタート地点へ戻った方がいいだろ……。

 『にしても、あんなところに雑草を結んで足を引っかける罠が仕掛けられているとはな。あれに俺が引っかかっていたらと考えたら……恐ろしいぜ』

 雑草に足を引っかけただけじゃねーか。どうやったら、それでそこまでボロボロになれるのか逆に解らん。

 『すまねぇ……すまねぇ……』(こうして、テルヤはボクをゴールまで背負っていってくれたんだ)

 なんというか……凄いやつだな。俺って。同時に俺ってバカだな……。

 (そして……テルヤは左足を失った)

 ……左足、ちゃんとあるんだが。

 (はぁ……はぁ……わし、疲れてきたけど、次の回想に行くぞ)

 ……え?まだあるの?


                              第58話の5へ続く


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