第58話の3『団らん』
城で夕食をいただいた俺とセガールさんを除き、他の人たちは料理のオーダーを始めた。アマラさんが言っていた通り、セントリアルの街は料理に特色というものがなくて、あらゆるものがそろっているけど定番しかない様子。それ故、あらゆる分野で対応力はある。
「ヤキニク入りミートパイ!」
「ルルルは野菜も食べた方がいいぞ」
「イモが入ってるから野菜も入ってるんよね」
「15種の野菜炒めだあああぁぁぁ!」
ヤチャ……野菜も大好きだったのか。意外だな。
「赤豆のスープ……」
「ゼロさん……スープだけでいいんですか?」
「いい」
(手羽先ください)
シェフの脳内に直接、手羽先をオーダーした仙人はともかく、他の人たちも料理をシェフに伝えている。俺とセガールさんも飲み物だけは注文したし、これで全員……と思ったら、まだキメラのツーさんが悩んでいた。完全にルルルのアクセサリーと化している為、たまに人数に換算し忘れてしまって失礼する。
『ん~……ど……どどど……勇者、選べべよ!』
「なんで俺なんですか……」
『わからないですから選べ』
「……じゃあ、アッチャガオッチャガをください」
それしか食べた事のあるものがなかったからして、俺は代理でアッチャガオッチャガを注文したのだが、その料理といえばキメラのツーさんの体よりも断然デカいわけで、食べきれそうになかった場合は俺が参戦せざるをえない……。
その後、表彰式での俺の緊張具合をみんなに茶化されたり、シェフが大きなバイオリンみたいな楽器を弾いてくれたり、予想外にキメラのツーさんが完食したりと、なかなか楽しい時間を過ごした。泊まる部屋は4人部屋が空いているとの事だったので、4人部屋と2人部屋で男女に分かれることとなった。
しかし、こうして皆で普通の宿に泊まるのも、パワーアップの塔の近くにある村で泊まって以来だろうか。あの時はゼロさんの名前すら知らなかったし、ヤチャは小さい姿だったし、ルルルと仙人はいなかったな。これが修学旅行であれば部屋で恋愛の話の一つもしようものだが、それができそうな相手もいないからセガールさんにからかわれる前に寝ようと思う。
「ちょっといいか?勇者」
もうそろそろ寝付けそうというところで、不意にゼロさんの声が聞こえた。夢の前兆だろうかとも考えたが、薄目で見上げたら本当にベッドをのぞき込まれていてビビった。
「あぁ!な……どうしました?」
「話がある。聞いてほしい」
「……それじゃあ……街でも眺めに行きます?」
「ここでいい」
「いいんですか?」
「いい」
部屋まで会いに来てくれたのは嬉しかったけど、ロマンチックな話じゃないことが確定して多少なりともガッカリした……。
第58話の4へ続く